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苦い人生 24

「うん、今日はちょっといろいろあって疲れたし、そうしようかなぁ」 「仮眠するなら安心だ」 「うん?」 「いや、俺も少し寝るし、こうやって寝るまで話するのはどうかな?」  そんな悌嗣の提案がくすぐったくて、ふふ って笑いながら寝返りを打つ。  いつもは眠る時間がずれているから、こうやって話をしながら寝落ちすることなんかまずない。  だからちょっと新鮮で…… 「いろいろあったって?面倒な客が来たの?」 「それがさぁ   」  Ωに恋人を取られた客が なんて、言えないことにはっと気づいて言葉を飲む込んだ。  三か月に一度の出張と偽って、浮気をされていたんだってって……言ったら、悌嗣はどんな返事を返してくれるんだろうか?  もし、それを聞いて慌てられたら?  それに気づいてしまったオレを、悌嗣は許してくれるだろうか?   「快斗?」 「や……水被っちゃって」 「えっ⁉酔っぱらい客?」 「そう、少しだけシャツが濡れちゃったんだけど……あ!もう乾いてるんだ!水だったしなんの問題もなかったんだけどびっくりしたってだけなんだけど、この季節だしすぐ乾くかなって思ってたらなかなか乾かなくてそれで……」  ここまで早口で言って、話すほどのことでもなかったと気付いて項垂れる。 「それだけ?」 「…………」 「その話し方をするってことは、何かまだあったんだろ?」  電話から聞こえる声に熱なんかないのに、悌嗣のその言葉は温かみを持っているようにオレの耳をくすぐった。  オレのことをちゃんと見ててくれてるんだなって、思うと嬉しくて。  Ωなんかに産まれたオレには、勿体ないくらいだって思う。   「あー……」  お客様の一人が妊娠したんだ って言うのは簡単だったけれど、それを言ってまた悌嗣とギクシャクした関係になるのは耐えがたかったから、代わりに横柄な客がいたんだ……と誤魔化した。   「ヤな客っているよな」 「うん」 「でも、帰ったら本当のこと教えてくれな?」 「えっ」  思わずうとうと……としていた目がぱちりと開いてしまう。 「誤魔化せたと思ってただろ」 「や だって……悌嗣とケンカしたくないんだ」  そう言うと返事が止まって……  察したんだってわかって体を起こした。  沈黙が肌を刺すような気配をまとわりつかせて、耐え切れずに「違うよ」って呻いてみせる。  でも、それも嘘だってわかってしまっているようで、悌嗣からの返事はなかった。

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