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苦い人生 26

   項垂れる形で寝入っていたせいかはっと顔を上げると首の後ろが嫌な軋みを上げて、思わずその痛みに顔をしかめた。 「え わっ  」  携帯電話の時間に目を走らせてぎょっと飛び上がりそうになる。  そこに表示された時間は、いつもならとっくに家に帰ってゆっくりしている時間帯だった。  悌嗣は早く帰ると言っていたけれど、それが何時かまでは分からない。  待たせてしまっているかもと思うと、嫌な汗がどっと噴き出してくる。 「 っ、なんでこんな時に限ってっ」  バタバタっと勝手口から飛び出して、忙しない動きで鍵をかけようとしていると尻ポケットに入れた携帯電話が軽快に鳴り出した。  さっと表示を確認するとカラスちゃんで……  無視しようかどうしようかと迷ったものの、これで足が止まるわけではないのだからと通話ボタンを押しながら走り出す。 「  ────あ!よかった!寝てた?」 「うぅん、どう したの?」  弾む息で言葉が途切れそうになるのを何とか繋げて問い返しながら、やけに騒がしい街角の方へと目を向ける。  もともと繁華街の端っこに店があるために、閑静な……とは言い難い場所ではあったけれど、今日はそれでも騒がしすぎだった。  お陰でカラスちゃんの言葉が途切れ途切れにしか聞こえてこず、「ごめん、静かなところでかけ直すから」って告げて切る羽目になってしまった。  赤信号だけれど時間もないし…と横断歩道を渡ろうとすると、目の前をパトカーが通りかかって慌ててたたらを踏んだ。  白と黒の車体が行き過ぎるのを横目で見ていると、タイミングよく信号が変わってくれたのでほっとして駆け出す。  今、悌嗣はどこだろうか?  もう、家についているかもしれない。  話、は、……何を話すんだろう?  どこまで話してくれるんだろう?  ずっと一緒に居たいと言ってくれたんだから、もしかしたら……?  息を整えながら腹に手を当ててみる。    今はそこに何もないけれど、もしかしたら悌嗣との子供を持てるかもしれないって思うと、それだけできゅうっと胸が苦しくなって、けれどほわほわとした浮足立つような気分になってくる。  二人の暮らすマンションの前まで来て、ほっと部屋の辺りを見上げた。   「や……でも悌嗣はそんなこと言ってなかったし……」  でも、その気がまったくないなら話し合うなんて言わないよな?  はぁっ と肺の中の空気を吐き出し、走ったために流れた汗を拭うために上げた手を止める。

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