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苦い人生 27
「……あの、訳のわかんないカミソリのことも、聞いて大丈夫……だよな?」
二人の物じゃない物がある居心地の悪さを思い出して、知らずに小さく体を揺すった。
それで這い上がってくるような嫌な感じが消えてくれるわけではなかったけれど、何かしないと落ち着かない。
さっきまではもっと幸せになれるんじゃないかって舞い上がりもしたのに、ほんの一瞬後の今ではやっぱり悪い話もされるんじゃないだろうか?と、急転直下の気分の変わりようだった。
感情の起伏に自分自身がついて行けず、息が弾んでいるせいもあってかくらくらと目が回りそうだ。
「オレが勝手に悌嗣の言葉をいいように受け取った なんて、思いたくない……」
もう部屋で悌嗣がオレを待っているかもしれないのに、足がぴたりと動かなくなってしまった。
どうしても、意見が食い違ったら?
βとΩで、結婚もしていない、パートナーシップも結べていないオレ達は……
それだけで、これからの人生を別々に歩まなくちゃならなくなる。
繋ぎ留めるものがないから、「他に好きな人が出来た」「意見が合わないから」そんなことであっさりと関係は破綻してしまう。
ぶるり……と体が自然と震えるが、いつまでもここに居る訳にも行かない。
それでなくてもオレが夜の仕事をしているって言うことで、きつく当たってくる人もいるんだから……
走っていたのが嘘のように、オレの足は重くてまるで引きずるようだった。
いつもはさっと開けて入る扉の前に立ち、恐る恐るドアノブを回してみるものの……ガチンと固い手応えだけが返る。
それもそうだ、鍵を開け忘れていたってことを思い出すのに随分とかかって、もしかして悌嗣はオレを締め出したいんじゃないのか なんて言う馬鹿な考えまで浮かんでしまった。
手の震えでカチカチと鳴る鍵を回して部屋を開けて、なぜだかほっと息が出る。
悌嗣の靴がないのを見て、どうしてか崩れ落ちそうになるくらいほっとしてしまったことに対して、はは と乾いた笑いが零れてしまった。
「なんでこんなに緊張しなきゃいけないんだか……」
はは……と笑って肩から鞄を床に落とすと、壁に掛けてある時計を確認してからフラフラと悌嗣の部屋に入り込んだ。
一緒に暮らしていて、出入りも自由にしていいのに、どうしてだか悌嗣の部屋は悌嗣の匂いがする。
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