213 / 714

甘い生活 5

「何?」 「うん、これ、良かったらパートナーさんと食べてもらえたらって思って」  そう言って差し出されたのはケーキ屋の袋で……  なるほど、この下りと言うわけだ。  場所は違うけれど、このやり取りはこれで三回目だった。 「いつもお世話になってるから」 「えぇ?余ったものじゃないの?」  意地悪くそう言ってやると、同僚はバツが悪そうに肩をすくめた。 「何でバレてるの」 「いや、昼もあんまり食べられないんだって言ってただろ?」 「うん なんか調子悪くて……仕事で胃でもやったかなぁ」  そう言って胃の辺りを擦る同僚に、本当のことを言ってやるべきかどうなのか…… 「あ、でもこれは余り物とかじゃなくて、昨日の夜に貰った差し入れだからそんな古いものとかでもないし、全然、全然、変なのじゃないんだよ」 「わかってる、わかってるよ!」  恋人が店で作ったクッキーなんだろって言葉は飲み込んだ。  その情報を、俺は知らないことになっているんだから。 「あの、俺のパートナーがケーキ屋やっててさ、それで差し入れてくれたものだから、美味いからっ」 「わかった、いただくよ。胃がおかしいならさ、今日の内に病院行ってくれば?ほら、明日からまた出張でバタつくだろ?」  そう言って同僚が脇に持ったままだったファイルを受け取る。 「後は俺がやっておくからさ、出張の準備の一環だと思って!」 「え、悪いからいいよ。それでなくとも出張を代わってもらってるんだから……出張から帰ってきたら行くからさ」  遠慮を表現するように同僚は胸の前で手を振って見せるが、そう言うわけにはいかない。  こいつの代わりに出張に行っている間に、快斗は店からの帰り道にたまたま出くわした強盗に刺されて死ぬんだから……  だから、どうしても俺は出張に行きたくはなかった。  ただ、ただ だ……  経験則から言わせてもらうと、快斗が死ななければ別の誰かがそこで亡くなるようだった。  前回快斗の代わりに亡くなったのはこの同僚の、恋人だ。  妊娠したと知って浮かれたために忘れてしまっていた仕込み作業を行うために、あんな時間に店に向かって刺されて亡くなった。  この同僚は、俺が快斗を救ったために大切なパートナーを失ったと言うことだ。  最初に快斗を救った時に、そこで代わりの人が轢かれて亡くなってから、俺はずいぶんと多くの人を快斗の代わりに差し出してきた。  

ともだちにシェアしよう!