214 / 714
甘い生活 6
直接手を下した訳ではなかったけれど積み重なる罪の意識に折れそうになった時もあったけれど、それでも俺が快斗を選ぶ決意は変わらなくて……
身近な人間が快斗の代わりに亡くなるのは初めてだったから、泣き叫ぶ同僚に掛ける言葉を見つけることができなくてただ謝るしかできなかった。
快斗を救えば、代わりに誰かが亡くなる。
そのことに気づいた時には、恐ろしくてとんでもない罪を犯しているんだって震えたけれど、俺には快斗を救うので精一杯だった。
だけど、後悔は 残る。
「でも さ、その不調ってもしかしておめでただったりしないか?」
「えっ……でも」
「従姉妹の姉ちゃんがおめでただった時となんか似てる気がするんだよ」
「え え でも 」
前回は、妊娠した体がバグって発情期みたいな症状になったって大慌てで、出張当日の朝に代わってくれって連絡が来た。
それをずらしてやったら?
最悪、快斗を店に居させていれば事件は回避することができたんだから……
スライドさせたものを、更にスライドさせたら?
今までそんなことを考えたこともなかったから、何が起こるのかわからない。
けれど、それでも……それでも俺のせいで恋人の死体に縋って泣き崩れた同僚をもう一度見たくはなかった。
「次……次の、ヒートがこなかったら、行くことにする」
同僚は俺の思いがけない言葉に面食らっている様子だったけれど、まったく心当たりのない生活をしていると言うわけではないせいか、そわ と体を揺する。
「いやいや、もし妊娠してたら出張なんて厳禁だろ⁉今行ってはっきりしたら、俺も動きやすいしさ」
強引か?
不審に思われたらお終いだ。
息を詰めるようにして様子を窺っていると、同僚が「はぁ」と肺の中の息を吐き切るような声を出した。
「じゃあ、ちょっと行ってこようかなぁ」
「そっか!行ってこい!結果わかったらすぐに知らせてくれ!」
「ん。二番目に教えるよ」
一番は言わずもがなな恋人なんだろう……
笑顔で手を振る同僚にほっとしながらさっさと行け と手を振り返した。
前回は、恋人が亡くなり、そのショックで子供も流れてしまっていたけれど……今回はどうか、新しい命をはぐくんで生きて行って欲しいと思う。
だって、それは……もう俺には叶わない夢なんだから。
だがこれで、あの二人の行動も変わったはずだ。
これでどうにかなって欲しいと思うのは傲慢だろうか?
ともだちにシェアしよう!