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甘い生活 8

 わかっては、いる。  快斗が何を求めているか、  何の話を持ち出したいか、    けれども、またあの子に会える可能性よりも、快斗とあの子を失う可能性の方が俺には恐ろしい。  弱虫 と、軟弱な と、罵られようとも構わない。  俺は快斗を愛しているし、救えるとしても失いたくない。    だから、俺はあえてそれから視線を逸らしてネクタイを手持無沙汰にいじりながら快斗の方へと寄った。   「明日、ちょっと早い時間に出るんだけど」 「ん?うん、いつもと同じだよね」 「快斗が今日も仕事だってわかってるんだけどさ」  「うん?」と首を傾げられてしまうと、これから言おうとしていたことがやたら恥ずかしく思えてきてしまい、ぐっと唇をひん曲げる。 「明日から三日間いないから、快斗成分を補充したいんだけどっ」  繰り返す人生の中で、何度も快斗を求めたけれど、改めてこうやって宣言するのは何度やってもどうにも恥ずかしい。  それは俺だけじゃないらしく、言葉を理解した快斗の顔がぱぁっと桃色に染まって、ちらりと食卓の方に視線を投げたのが分かった。  快斗の出来立ての料理はうまいのは重々承知だ。  母子家庭で母親の代わりに磨いた腕は、家庭らしい味がして自分の育った家の味よりも俺に深く馴染んでいる。 「快斗の料理は温め直してもうまいから、後で食べる!だから、   」  よく似合うネイビーと薄いグレーのエプロンをちょいちょいと指先で引っ掻いてやると、快斗は桃色を通り越して赤くなってしまった顔を伏せてこくりと頷いてくれた。  ぢゅ と絶妙な力加減で吸われると膝から崩れ落ちていきそうな感覚がして、壁に凭れて踏ん張るように体を支える。  俺の臍の下でふわふわとした髪が揺れる度に、滑らかな動きでモノを舐め上げる舌の動きに震えが起きた。 「ちょ 快斗、か  っ」  意地悪に鈴口を舌先でちろちろと割るように刺激され、言葉が出ずにぎゅっと体に力を入れてなんとか射精感を逃してから、慌てて快斗を引き離す。  そうすると唇の端から銀の糸が滑らかに伸び、光を反射してからぷつりと途切れる。   「快斗っ」 「だ って」  名残惜し気に唇の上で光る唾液が艶めかしくて、それを見ていると思わずごくりと喉が鳴った。  皮膚が薄いせいかこれだけで快斗の顔は真っ赤で、更に目の縁が鮮やかに色づくからますます色っぽくて…… 「じっくり堪能したいって言ったの!」 「オ、オレだって堪能したいんだっ」  あられもない恰好でいい年した大人が二人、洗面所で何を言い争わないといけないと言うのか。

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