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甘い生活 11
繰り返す度に、重く暗く深く沈鬱に、より強固に俺を不安にさせる。
「悌嗣?」
それでも、俺はこの腕の中の温もりを失う気はないし、快斗のためならなんだってできるんだ。
「なんか引っかかってるんだろ?」
「う ん 」
浮かない返事をして快斗は腕の中でくるりと向こうを向いてしまう。
確かに俺が噛みついて傷をつけたはずの項がむき出しになって……その白さに目が回りそうだった。
せめてI字のカミソリであったならもう少し剃りやすかっただろうに。
上を向くことに疲れたのか快斗が手をばたばたと振り始める。
「もう終わるから」
「っ っ あーっ首が疲れるっ」
「だから、膝に頭乗せた方が楽だろうに」
浴室の床に寝転がってくれれば、その方が幾分も剃りやすい。
でも快斗が顔を赤くしてそれを拒否するから、しかたなく雛に餌をやる親鳥の気分で、快斗に首を反らさせて剃る羽目になってしまった。
「なぁ、気になることがあったらさぁ、ちゃんと聞いてよ」
血行が悪くなったせいでひやりと冷たい首を揉んでやりながら言うと、眉を八の字にされてしまい……
それをあやすために、日に焼けずに白いままの髭の痕を撫でた。
「なんか悩んでたんだろうけどさ、結局悩んでたことも、真相はどうにも下んないことだったろ?」
「う 」
「俺はそんな時間を快斗に過ごして欲しくない」
男二人が入るには狭い湯船に促して、後ろからぎゅって抱き締める形で体を沈める。
「快斗には幸せでいて欲しい、悩まないでいて欲しい、心配なんてして欲しくないし、悲しんで欲しくもない」
それに、死んで欲しくもない。
今はやり直すことができているけれど、いつか繰り返すことができなくなったら?
繰り返しても、快斗のいない世界だったら?
「俺にはお前だけなんだ」
しっかりと腕の中に閉じ込めていてもするりと逃げて行ってしまう快斗を、俺はどこまで追い続けることができるのか、不安になる時がある。
「だから、ほんの少しでも気になることは聞いて欲しいし、答えるから」
快斗の手を取って左手の薬指にはまった指輪を弄ると、ちゃぽちゃぽと言う音だけがして、快斗からは何の返事も返らない。
「……じゃ、あ さ」
結局何も言わないままかと思い始めた頃、快斗がぽつんと零す。
指輪を弄る俺の手をぎゅうと握って、それでも勇気が出ないのか続きはすんなりとは出てこなかった。
「────オレ以外に、相手 いる?」
「は?」
予想外の言葉にぽかん と口が開いた。
「あ……?はぁ⁉なんでそんな話が出てくるんだよ!」
思わず激情のままに体を前のめりにすると、自然と快斗が押し出されるような形になってしまい、するりと逃げるように対面へと行ってしまう。
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