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甘い生活 12
ぴったりと密着していた温もりが離れて行くのを反射的に追いかけようとしたけれど、真剣な目で俺を見る快斗に伸ばした手を下げた。
「俺が浮気するような奴だって、思ってる?」
「ちが う」
唸るような声は、否定していても肯定を表していて……快斗に言われたとしても気分のいい言葉じゃない。
気付かない内に睨みつけるような視線になっていたのか、湯に浸かっているのに青い顔をした快斗に慌てて首を振ってみせる。
「ごめんっ」
「それって、本命がいるってこと?」
「違うっ!なんでだよ!怒ってごめんって意味だよ!」
快斗の呼吸は今にも止まってしまいそうで……思わず救急教室で教えてもらった人工呼吸の手順を思い出していた。
「悌嗣はっ……っち、うまいだろっ」
舌打ちじゃないのは付き合いが長いから良くわかる。
さっきまでやることやってたし、今だって裸のまま向かい合ってるのに何を恥ずかしがる必要があるんだか。
「あ、あぁ?あり、ありがと?」
で、いいのか?
「経験人数、教えて」
「なんでそんな話が出るんだ⁉」
「だっ 」
だって が小さな子供のようだと思ったのか、快斗は赤くなって視線を逸らしてしまう。
「経験……いっぱいあるのかなって」
「はぁ⁉」
経験なんて、産まれて今迄まで快斗以外にない!
「俺、お前としかしてない!」
「でもっうまいだろっ」
うまいうまいと連呼されて、男としては喜ぶべきなのか……
「俺がうまいのはっ努力の結果だ!」
そう怒鳴ると一瞬風呂場が静まり返ったような気がした。
「だ 」
「俺がどれだけ小遣いをAVや本につぎ込んだか知らないんだろ」
だって と言おうとしたのをそう遮る。
経験の数が、人生を繰り返した分多いのを引いたとしても、俺は快斗を気持ちよくさせたくていろいろ知識を詰め込んだのは確かだった。
実家に置きっぱなしにして来たから今頃は捨てられているかもしれないけど、あのコレクションはちょっとしたものだと思う。
「あと単純に器用だからな、俺」
そう言って快斗の目の前で指を動かしてやれば、それがどう言った時の動きなのか心当たりがあったらしく、赤い項がまた更にぱっと赤みが増した。
「えっ あ……」
「それ以外に証明する方法なんてあるのかわかんないけど、快斗がそれでも信じられないって言うんなら……貞操帯でもつけようか?」
「~~~~~~~~っそんなこと言ってないっ!」
興奮して立ち上がろうとするから湯が跳ねて派手に飛沫が飛び散る。
「オレはふざけてない!」
「俺だってそうだよ?」
「 っ」
「いつだって真剣に思ってる」
ぐっと手を掴んで座り直させると、快斗はぎゅっと肩をすくめて居た堪れなさそうにこちらを見た。
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