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甘い生活 14
快斗の手に力が入って、俺の手を腹へと導く。
「だから、オレは二人で未来に遺せるものが欲しい」
皮下脂肪の薄い腹に触れて、ぐっと唇を噛み締める。
また、快斗と一緒に子供を失ったら?
そう考えて震えそうになる俺を、何も知らない快斗が不思議そうに見詰めていた。
快斗は、何も知らない。
だから、子供のことを拒否する俺のことをどれほど理不尽に思っているのかは、理解できる。
俺には繰り返した世界でも、快斗にとってはすべてが初めてで、その中で願いを拒絶されて何も思わないはずがない。
それこそ、思い悩んで……自死を選ぶほどに。
思い悩んだんだろう……
「…………パートナーシップの適用が、さ。来年また見直されるだろ?」
「え?うん」
「今度はパートナー枠に、俺みたいなどちら寄りでもないベータも含まれるようになるって噂を聞いたんだ」
突然話を変えた俺に快斗は怪訝な顔を向け、首を傾げて懸命に意図を読み取ろうとしてくれている。
「それまでには、覚悟を決めておくから」
「え……」
「えって、なんだよ。パートナーシップを結んでからの方が子供の手当てとか保障もいいだろ」
そう強め言った途端、ぽとん と雫が落ちて水面に波紋を作った。
もう一度滴る音がして、規則正しい水の輪が広がって行く。
「ホント?」
と……と溢れ出る涙は、このことを快斗がどれだけ気にしていたかを物語って……
「ああ。泣くなよ、頼むから」
狭い湯船に居るのに遠くに感じてしまうから快斗をこちらに引き寄せて腕の中へと収める。
馴染む体温がじんわりと触れ合った場所から伝わってきて、それを追いかけるように早い鼓動が聞こえてきたから、それにほっと安堵の息を漏らす。
「ごめん、ホント、ごめん……俺が覚悟を決めるべきだったんだ」
快斗を幸せにすることだけを、考えるべきだったのに……
快斗を生き延びさせるための行為が、快斗を追い詰めてしまうなんて、そんなことは許されない。
「うぅん」
腕の中できゅっと身を縮めて「ありがとう」って呟く快斗に、そっと唇を寄せた。
「 ────っ」
電話越しでもわかる悩ましい射精時の呼吸と、今にもしゃくり上げて泣き出しそうな快斗の小さな声と。
「 っありがと、快斗。気持ちよかった」
電話に向けてこれ以上ないほどの思いを込めて言うと、向こうで快斗が照れ隠しのためにぶっきら棒になった口調で「別に」って言う声が聞こえた。
「そう言う、約束だったし。別に 」
別に と繰り返す快斗の顔がきっと真っ赤なんだろうってわかってるから、俺も自然と笑ってしまう。
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