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甘い生活 16
それでも、俺は……快斗を生かすためなら……
「……あれ ──── 」
画面を撫でる指が思わず止まった。
……記事が、ない?
幾ら読み込み直しても画面の内容が変わることはなくて、俺はどっと噴き出した汗を拭うために額に手を当てた。
どうして?
この時間には、強盗に入られた家の生き残りが警察に通報して、騒ぎになっていたはずだ。
逃走した犯人を探して、騒がしい風景や情報がネットで流れているはずだった。
ふと考えついたことに背筋がぞっと震える。
亡くなる人が変わることがあるのは知っていたが、事件の起こる場所が変わることは……あるのか?
少なくとも今までそんなことが起こったことはなかったけれど、今回が前回とまったく同じだと言う保証はどこにもなかった。
「すみません……急いでください…………急いで!」
突然そう声を荒げた俺に運転手は胡乱な目を向けたが、特に何か言い返すこともないまま頷いてくれた。
どうしてだか、体がぶるぶると震えるのを止めることができなくて、まるでそこに何か悪魔でも植え付けられたように胸がむかむかして吐きそうだった。
タクシーから飛び降りて店の入り口に組みつくように手を伸ばしたけれど、しっかりと施錠された扉は開く気配がない。
車の中からかけ続けている快斗の携帯電話は出る気配がなく、舌打ちする時間も惜しくて裏口へと駆け出した。
汗が噴き出すせいで、耳の奥がわんわんとうるさい。
「快斗……快斗…………っ」
薄く開いたままの裏口に、体の内側が一瞬で熱を失って……
「――――っ!」
耳に届いた派手に何かが倒れる音と快斗の小さく上がった悲鳴と……
声を上げることができないまま店に飛び込んで、快斗に襲い掛かろうとしたその背中に手を伸ばす。
何をどうすれば なんて考えている間はなかった。
ただがむしゃらにその男の襟首を掴んで引き倒した瞬間、俺を呼ぶ声にほっと胸を撫で下ろした。
「悌嗣……」
「ぶじ 無事か……?」
床に尻餅をついているがその体にはどこにも怪我は見当たらなくて、俺は間に合ったんだってわかった。
今回も、快斗は犠牲にならなかったんだって……
「――――悌嗣っ!」
はっと見開かれた快斗の瞳にきらりと翻る刃物が見えた瞬間、どうあっても犠牲者が必要なんだってことを思い出した。
よろけるように警察署を出ると、二人で顔を見合わせる。
おかしくもないのに、はは……とお互い笑いが漏れた。
「いやぁ……できすぎだろ」
「悌嗣が強運過ぎるんだって……」
あの時、俺に凶器を振りかざした犯人を取り押さえたのはタクシーの運転手だった。
明らかに様子のおかしい俺を心配したために様子を見に来てくれたのと、彼の前職が警官だったのだそうで……できすぎた偶然と言えばそれで終わりな話ではあったけれど、それのお陰で俺も快斗も救われたのは事実だ。
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