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ひざまずいてキス 5
おっさんの後先考えずに飲み食いしてダルダルになった体なんて揉みたくもない。
「あーあ」
「なに?大ちゃん、恋の溜め息?」
「いや俺、そっち方面で溜め息つくようなことないんでー」
「モテるの⁉︎」
「なんでそんな意外そうに言うんっすか!俺かっこいいでしょ?」
「女なんて結局は金だよ?コレ持ってないとー若さと顔だけなんて、年取ったらあっと言う間に見捨てられちゃうよ?」
思わずぐっと手に力が入って、おっさんが這いずりながらあうあうと悲鳴を上げている。
「ごめん!ごめんって!」
「ああ、つい、すんません」
気分的にはもっといじめ抜いてやりたかったけど、まぁ仕方がない。
「あれだよ、金は貸せないけどなんかあったら手助けくらいしてやっからさぁ」
酒臭いし、ついでに加齢臭とか諸々ひどいし、図々しいしけど、いざと言う時は手助けしてやるって言葉が嬉しくて、いつもよりちょっと長めに腰を揉んでやった。
古いように見えるレンガ作りのビルだったが、おっさんが言うには少し前に大神が買い取り、足繁く通っているのだそうだ。
「あー……でもアレだろ?セキュリティーとかバッシバシで結局なんもできねぇってヤツだろ?」
そう言う俺に、おっちゃんはニヤリと笑って見せた。
大神を探れ……なんて大雑把なことしか言われてないんだから、なんかよく通ってるここにある重要そうな紙の一枚でも持ち帰ればミッションコンプリートするんじゃね?って思い立って、いろんなところにツテのあるおっさんに甘えることにしたんだけど……
「えっ……あれってした、 」
辛うじて最後の一言は飲み込んだけれど、大神の抱えている布でくるまれた者は大きさ的にも形的にも明らかに人だ。
そんな、幾ら住む世界が違うって言ったって、そう非日常的なことは起こってばっかじゃない……って、思ってたんだけど、荷物を抱えて車に乗り込もうとした衝撃で白い手がころりと出て来た時には、どっと汗が出た。
力の入っていない手は振動に合わせてぶらぶら揺れていて……
ガチでやばい話になって来たと、血の気が引いた。
「────っ」
思わず身を乗り出しそうになった時、ひく と指先が動いたのが見える。
たぶん、そう思いたいって気持ちが見せた幻とかじゃなくて、……多分。
「……よ、よかった」
乗り込む直前に俺の方にちらっと視線を投げかけられて、大慌てで身を竦める。
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