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ひざまずいてキス 6
車のエンジン音が遠退いたのを確認してからそろりと顔を覗かせると、車が消えてしまうまで律儀に頭を下げて見送っていたあの秘書のなんとかって奴が顔を上げるところだった。
ふら と体が揺れる。
「あ?」
よたよたと壁に手を突き、きつく口元を押さえてふらつきながらビルへと入って行くのが見えた。
「……あんなふらついて、大丈夫なんかよ」
遠目に見ても真っ青な顔は明らかに調子が悪いってことだ。
ってことは、チャンスじゃね?
大神って言う奴ならともかく、あいつだけならどうとでもなる。
おっちゃんが教えてくれた通り、そろそろとビルの側面に回り込む。
「なーんーでー、あのおっちゃんがこんなこと知ってんのかは置いといて」
ぐっと手を伸ばして隣のビルとの間で腕を突っぱねる。
そんなスパイ映画みたいなことできんのかよって、実は半信半疑だったけどもさ。こうして側面を登って行くと外階段に入り込めるのだと。
随分昔に建てられたこのビルは警備?警報?システムの関係で、一階はガチガチに固められてるけど二階より上は入ったもん勝ちな状態なんだと。
おっちゃんがなんでこんな情報を持っているのかはもう考えないようにして、後は鍵を何とかして入るだけだ。
その入り方の手ほどきもしてもらってて、本当におっちゃんナニしてた人なんだ……
「んで、だ。あいつは……」
俺からしたら、手下を一杯引き連れてんじゃね?って思ってたんだけど、ここんとこずっと見張ってて分かったのは大神の周りに人は多くないってこと。
特にこのビルには大神と秘書のヤツしか来たことがないのは、ちゃんと下調べ済の話だ。
そいつさえ避ければいいってもんで……
「 ────っ」
思わずびくっと背筋が伸びる。
色んな悪さをしてきたわけだけども、だからってびっくりするのはびっくりする。
微かに声が聞こえてきたのは隙間から明かりが漏れている部屋の方からだ。
ガタガタって大きな音がして……
「…………」
音がしたってことはそこにあいつがいるってことだ。
無視して他の部屋を漁りに行けばいんだけど……いいんだけど、さ。
……いいんだけど。
「くそっ」
あいつが倒れてたら?
俺が見捨てたせいでなんかあったら、後味悪すぎんだろ!
そろりと足音を立てないように気を付けて扉んとこまで行って、耳を扉につけてみる。
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