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ひざまずいてキス 18

  「大神さんはベータだし、俺だってベータだ。成功者にはアルファも多いがアルファだけが成功しているわけじゃない。結局第二性なんておまけみたいなもので、個人の努力次第じゃないのか?」  ……引っかからなかったか。 「俺だって努力してんのにー」 「努力の方向性が違うからじゃないか?」  そう言って俺を見下ろす目は冷ややかで、最近ちょっとこの目で見られるのが癖になってきてる。 「大神さん自身、きちんとした能力を示せば男女性も、第二性も気にされない方だからな。実際、うちの系列は圧倒的にベータと無性が多いんだ。もちろん、他の企業よりもオメガの雇用率は断トツで高いしな」  俺自身もベータだが取り立てて貰っている と続いた言葉にむっと唇をひん曲げた。  その取り立てて……がナニで取り立ててるのか、知らないと思ってんだろうか?  あ、知らないはずなんだった。  ちょっとぶちまけて、また堅苦しい秘書の顔になっているナオちゃんの表情を崩してやりたいって気にもなる。   「俺みたいにベータなのにフェロモンに反応してしまう人間は、薬も効きにくいせいで今の社会じゃ一番持て余されているからな。そのせいで身を持ち崩す奴も多いし」  つまらないって顔をしてみせるけど、ナオちゃんはすっかり説明に夢中で俺には見向きもしてくれない。 「ただ、大神さんのアルファに重きを置かないって行動は、やっぱりアルファ至上主義からはちょっと煙たがられたりもして……妨害も多いんだ」  あれだ、あの、大神の後ろでする忠犬の顔だ。 「だから、いざと言う時は、盾くらいにはならないとな」  その顔は……  俺は、  見たことがない。    大神と二人きりの時はそんな顔をして見せてるのかな とか、ちょっと思うと腹が立ったからナオちゃんが畳んで積み上げた服を崩す。 「ちょ   崩すな!」  「えーじゃあさぁ、俺強いよ?ボディガードとかにどうよ?荒事用の雇用口ってないの?」 「俺より強かったら推薦してやる」 「あ、それは余裕~」  カチンときた顔をしてるけど、体格では勝ってるのにって思ってる段階でもう駄目だよ。  大神くらい圧倒的な差があれば違ってくるけど…… 「ところで、本当にどこに隠したんだ!」    毎回毎回キレイに片づけるのにUSBが見つからないことにだいぶオコな感じだ。  さっき俺が崩した服を直す手にも力が入っている。   「んふふー、ひ、み、つ」 「うっっっざ」  忠犬の顔が崩れて……  これはきっと俺だけが見ている顔だと思う。  ナオちゃんは大神には取り澄ました顔しか見せてないんじゃないかなって思うから、これは俺だけの顔だ。

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