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ひざまずいてキス 19

「ねー、でもちょっと考えといてよ」 「礼儀のなってない奴を大神さんに近づけるわけないだろ!」 「ちゃんとできるってー!」  そう言って爪先でその背中にちょっかいを出してやると、むっとこちらを睨みつける。 「ラーメン屋のバイトよりも稼げそうだし」 「…………」  俺の言葉にナオちゃんはちょっと辺りを見渡して……  はぁって溜息を吐いた。 「あそこ、賃金が少なすぎるんじゃないのか?」  潜められた眉は、このアパートを改めて見てそのボロさにびっくりしていると言いたげなものだった。  そりゃあ取り壊し予定でもおかしくないくらいぼろいアパートだけどさ。 「まぁ昔ながらのって奴で、そこまで利益優先でやってないからなぁ」  三食付いて住み込みで働かせてもらってる身としては、別に十分な給料をもらっていると思うし。 「…………はぁ、しょうがない。履歴書を見せるくらいはしてやるから」 「りれきしょって、どこで売ってるんかな?」 「は?」 「今んとこは紹介で入ったし」  何か言われる前に急いでそう言うと、ナオちゃんは頭を抱え込んで突っ伏してしまった。  休憩中の札を片付けるために店外へ出ると、柄の悪そうなおっさんが子分を引き連れてこちらにやってくるところで……  思わずちらりと店の方を見てから睨みつける。 「なんだよ。あんたはここには用なんてないはずだろ」  低い声で言ってやったが、俺が店を見たのに気づかれていたらしい。  にやにやとした顔で店を見て、わざとらしく辺りを見回す。   「この辺りに、再開発の話が出てるのは知ってるか?」 「あ?んなもんとっくに消えた話だろうが」  急に何言ってるんだ?って顔で睨みつけてやったが、おっさんはにやにやとした笑いを止めることはなかった。   「ところで?あっちの方はどうなってるんだ?」 「あー……大神に直接会えるかもしれないっす」  ナオちゃんが許可してくれたら……だけどな。 「早く調べてこい」 「でも、ナオちゃんも大神は自分と同じベータだって言ってたぜ?調べるだけ無駄じゃねぇのか?」 「ベータ?」  柄の悪い顔を更に悪くして、おっさんは睨みつけてくる。 「お前、すっかり骨抜きにされて転がされてるじゃないか。直江はアルファだ」 「んなこと……」 「アルファばかりの娼館から引き抜かれたんだぞ?」  ぐっと言葉が詰まって、かなり強引に盗み見た免許証にもえーって書いてあったことを思い出した。  ……じゃあ、あの時のナオちゃんは俺に嘘を吐いたことになる。  

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