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ひざまずいてキス 20
「…………」
「手練手管でいいように遊ばれているじゃないか?さすがあの大神の愛人だなぁ?」
「……」
違う。
「ナオちゃんは、あんなにさらっと嘘を吐ける奴じゃない」
ちょっとからかっただけで怒り出すような奴は、嘘を吐こうとすればもっと動揺するはずだ。
「だから、違う」
ぎっと睨みつけると一瞬怯んだ顔をしたものの、ちらりと店を見てにやにやと笑う。
「この辺りの土地の値段が上がってるって知ってるか?」
はぁ?と声を上げようとした時、おっさんの後ろから見慣れた赤ら顔がひょっこりと顔を覗かせて、親し気に肩に手を置いた。
「あれぇ?大場さんとこの、なんてったかなぁ?」
酒焼けした声は、俺にいつも肩を揉めと騒ぐおっさんだ。
「なん……っ」
振り返りざまに殴りかかろうとでもする勢いで振り返ったのに、おっさんはボールみたいにぽんっと跳ねて動かなくなってしまった。
それを見て、赤い顔を更に赤くしてがはがは笑う。
「あーそう。んで? えーっと……ほら、あれだ、だれだっけ?」
「……満田、です」
「ああ!そうだ、うん、俺これから飯なんだけど、一緒に食ってく?」
そんな名前だったのかって感心する前に、満田はオラつき始めた子分の腕を掴んで行ってしまった。
まるでお化けでも見たかのようで……
「おおー……おっさんなにもの?」
「んんー?にぃちゃんのマッサージのファンかなぁ」
ひひひ と笑うけど、ビルの一件と言い今回満田を追い払った件と言い、つまりただのダメなアル中パチ狂い親父ってわけではないってことだ。
二人を見送る姿はどこにでもいるただのおっさんなんだけど……
……?
「もう開くんだろ?」
「あ、うっす。…………」
「どしたぁ?」
「おっさん姿勢変わったね」
赤い顔をこちらに向けて、おっさんはまたひひひといつもの調子でにんまりと笑い、懐を手でぽんぽんと叩いてみせる。
「そりゃあ一発当てて気分がいいからな。姿勢も伸びるってもんだ」
「えっじゃあツケ払ってあげてよ」
「そ……それは、まぁ、ほら、別の話だ」
しどろもどろ言うおっさんは、どうやらツケを払う気はなさそうだった。
いつも通り餃子を肴に飲んだくれているおっさんが何者なのか気にはなったが、話したければ本人から喋ってくるだろうってことで、気にせずに入ってきた客に「らっしゃせー」と愛想よく声をかけ……て。
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