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ひざまずいてキス 22

 表情は相変わらずツンツンしてるし、視線は合わないままだし、意外とワイルドに唐揚げにかぶりついてるけど、聞こえてきた声は聞き間違いじゃない。 「えっあっ……うん、か……顔見れないと、寂しい な」  バクバク言う胸を押さえてつっかえながら言うと、切れ長な目が眇めるようにこちらを見てから、ほんの少しだけ笑う。 「だから、しょうがないから来てやった」  笑顔は一瞬で、言葉も上からだったのに……  どうしてだか口がにやにやするのを止められなかった。    う……と呻くように口を押えたナオちゃんを見た瞬間、咄嗟に俺の部屋へと避難させた。   店のためと言うよりは、弱ったナオちゃんを他の人間に見せたくなかったからって言うのが第一で。  青い顔をして苦しそうにしているナオちゃんを部屋に寝かして、細くなった背中をゆるくさする。  そうすると少し眉間の皺を緩めてくれるから、ほっと胸を撫で下ろした。 「ほら、やっぱり急に油物を腹に入れるからだって」  俺の忠告を無視するからそうなるんだってもっと言ってやりたかったけど、弱った人間に追い打ちをかけるような真似はしたくなかった。 「大丈夫?」  青い顔にかかる髪をそっと払ってやると、クマのできた目がきつく閉じられている。 「仕事、そんなに大変なのかよ?」 「……あ?そりゃそうだろ。何人の生活がかかってると思ってるんだ」 「…………」  ぐっと言葉が詰まる。  会社に何かあれば社員に跳ね返ってくるのは、さすがに俺だってわかることだ。  その仕事の邪魔をしていると言うことが、なんだか座りを悪くさせてもぞもぞと落ち着かない。 「や……ヤクザ会社なんだから、ボスはふんぞり返ってても金が入ってくるもんだろ?」 「はは!いつの時代の話なんだ」  つい憎まれ口のようなセリフを吐いた俺に、ナオちゃんは短く笑った。 「大神さんのように寝る間も惜しんで働ける人間には一番縁遠い言葉だな。だから、あの人の力に少しでもなりたいんだ、俺なんかの力なんてなくたって構わないんだろうけど……」    そうやって大神の話をしている時だけは、ちょっと楽そうにしているのが面白くなくて…… 「…………あ、そ。俺は店に戻るから休んでて」    ひん曲げた口からは素っ気ない言葉しか出せないまま、戸惑っているナオちゃんを置いて店に戻った。    ナオちゃんが大神の話をする時に見せる顔は、俺の前でする表情のどれとも違っていて、それがなんだか面白くなくて不貞腐れたままでいると、ちびちび飲んでいたおっさんがからかうようにしゃべりかけてくる。

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