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ひざまずいてキス 28
ふらふらとこちらにやってくるその姿に……
どうしてか寒気を感じた。
「……っ」
正面きって向き合って、ぞっとしたのなんて数えるほどしかない。
「────どうした?」
「あ……」
じゃり って靴底の下でコンクリが鳴る音が合図とばかりに、頭より先に体が動いた。
体を反転させて、出来る限りの勢いで一気に駆け出す。
常連だから とか、知り合いだから……とかそんなことを考えている余裕は一切ない。
背中から感じる何か得体の知れないものに見られている気配に、体中に鳥肌が立った。
さっきまで、自分がアレと並んで歩いていたって言うのが信じられなくて、思わず歯がカチンと鳴って小さく痛んだ。
何が起こったのかわからないまま、ここに居ちゃいけないって本能が訴える。
「 っくしょ……っ」
思わず喉から呻くように出た言葉は、あっと言う間に荒くなった息に紛れて消えてしまう。
おっさんの後ろについて何も考えずに入ったビルの裏手を走り抜けながら、ここを右に曲がれば表に出れるはずだ と思った瞬間だった。
自然と仰け反ったのは、いわゆる体が勝手に動いてくれたって奴で……
「────っ!?」
目の前を紙一重でキラリと光るものが掠めていったのを見た時、ぞっとして腰が抜けるかと思った。
「っ!」
喧嘩でもなんでも、躊躇のない奴が強いのは道理だ。
銀色のそれが何かなんて、小さな子供でも知っていることだし、まじまじと見返さないとわからないほどバカじゃない。
そのナイフが、ちょうど俺の首のあった辺りを掻き切るように動いていた。
しかも、あり得ない位置から……
ビルの壁にクモみたいに細長い手足でへばりついた奴が、空振りしたナイフを不思議そうに見詰めて、くるりと首を巡らせるのが見える。
色んな色の混じった髪の間から、人間の物とは思えない光る目と目が合って……
腹の底が冷えるって感覚なんだって理解した。
「 ぁ……」
ぺたんとついた尻餅をどうすることもできず、壁を這うソレを見上げて……震えていることに気が付いた。
少しの隙間もないように結束バンドで足、親指、そして両手を後ろ手に括られ、追いついてきた常連のおっさんに言葉通り引きずられてすぐ傍のビルに引き込まれる。
なんの戸惑いもなく俺を引き摺ったまま階段を上がっていくおっさんは、いつも通りの姿のはずなのに化け物でも見ている気分にさせた。
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