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ひざまずいてキス 30

    足先の方から、ゾクゾクとしたものが這い上がってくる。 「な、ナオちゃん……コレ外してくんない?ほら、顔見てお話したいなぁ  って   」  カツリ って顔の傍に来た革靴が振り上げられたと思った瞬間、目の前に火花が散って一瞬視界が暗転した。 「あ゛?  っ」  固い爪先がほっぺに食い込んで、抉るように突き進んで……  吹き飛ばされた体が床で弾んで、自分がどうされたのか理解するころにはまた足音がこっちに近づいていた。  また蹴られると身を竦めた時、   「大神さん  待ってください」  平坦なナオちゃんの声が聞こえて、大神を止めてくれたんだってほっとした。 「汚れますから、こちらを」  俺の希望とは全然違って、ナオちゃんはスーツの内側から皮手袋を取り出して大神に手渡している。  その目は、やっぱり俺を見ていない。 「ナオちゃ……ぅっ」 「この部屋に、入ったことがあるんだろう?」  皮手袋をはめた手が髪を鷲掴んだせいでぶちぶちと鈍い音が、骨を伝わって聞こえてきたけれど、不思議なことに痛みはまったく感じない。  ナオちゃんが少しも動かせなかった俺の体を、片手だけでずるりと引きずり上げる。  その拍子に鼻血が垂れて、床に点々と赤い模様を描いた。   「壁紙に気づいたか?」 「……は?」  髪だけで引きずられているから、ぶちぶちって音はずっと聞こえているのに……  どうしてだか、大神の声しか理解できない。 「この部屋の壁が、どうしてざらざらしているか、わかるか?」  大神の歩みは俺を引きずっているなんて思わせないくらいよどみがない。  何の話をしているんだって思っていたのがばれたのか、粗い作りの顔が俺を見下ろした。  顔のいい悪いで言うなら、悪くねぇんだろうなって思った瞬間、こめかみからごつんと音が響いて刺すような痛みが頬を抉る。 「ぅ……っ……んなこと、知らな   」 「これぐらいざらついている方が擦り下ろしやすいんだ」  その声はまるで大根でも擦ろうかってくらい平坦で……  頭蓋骨がごり って音を立てたと同時に、灼けるような痛みが顔の左側を襲う。 「────ぅ、ああああっ‼」 「硬いな」  つまらなそうに言う言葉に、皮膚が引き攣れるように痛む。 「さぁ、話して貰おうか」 「は、はな……?って言うか、いきなりなんすか?」 「いきなり?俺の秘書がずいぶんと世話になったそうじゃないか」  痛みに歯を食いしばりながらそろりと目を開けると、無表情のナオちゃんがこちらを眺めている。 「なに…会社の社長ってのは、っ、ヒショのケツの穴のことまで把握してんの?」     俺を見ていないナオちゃんに胸がきゅってなって、ついそんな言葉が口を突いて出た。

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