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ひざまずいてキス 33
そこには、間抜け面して携帯を弄っている俺の姿が映っていて……
「な……ん、…………そりゃ、付き合ってる奴の携帯見るなんてあることだろ」
それ自体、いいイメージはなかったけど。
「付き合ってる?」
低い声に部屋がぴりって張り詰めて……
結束バンドを取れないかって動かしていた腕を思わず止めてしまった。
「直江」
「はい」
顎を掬い上げられて、ナオちゃんはうっとりとした目で大神を見上げる。
「あいつはあんなことを言っているが」
「さぁ?心当たりはありません。何か勘違いしたんじゃないですか?」
冷たい目が俺を見下ろす。
「例えば、お前好みの、一見しっかりしてそうなのにちょっと抜けるとこ抜けてて、良く見たら感情がもろ出しでからかったら楽しそうな奴に、野良猫が懐くみたいに気を許して貰って気分良くなったりとかしたんじゃないですか?」
「なるほど」
「か、勘違いなんかじゃねぇよ!」
ふらつく体を起こしながらそう怒鳴ると、俺が見たこともないような冷たい笑い顔がこっちを、向いていた。
「現にナオちゃん俺と寝てくれただろ?最初はあんなにげーげー吐いてたのに吐くこともなくなったし……会いに来てくれたし……」
「仕事だったからな」
なんの感情も込められていない声は平たくて、全然普段のナオちゃんの声と違う。
いつもはもっと怒るようだったり、きつめだったり、ちょっと拗ねたみたいに突き放すようだったり……
「…………仕事」
ぽかんと言った俺に初めて眉をしかめてくれたけど、それもいつもみたいな顔じゃなくて、なんだか胸がドキドキする。
「な……なんで」
「お前と一緒だよ」
よろけるようにして俺の血のついた壁にもたれて、なんのことだってとぼけようとした瞬間、足元にカシャンってハンガーが投げられた。
なんの変哲もない普通のハンガーで、ナオちゃんがそれを投げて寄越したことがさっぱり分からない。
見たことのあるようなないような気がするけど……
「お前の部屋に置いてあったハンガーだ。いや、お前の部屋じゃないな」
「………」
は と息を吸い込んだ。
「これにはカメラが仕込まれててな」
よくよく見てみれば、ネジの穴かそう言ったデザインなんじゃないかってくらい小さな穴が開いている。
「お前の目的は?大場の人間から何を頼まれた」
チャリ……と、それまで空気だと思っていた女が刃物を持ち出して、まるで見せびらかすように近づいてきた。
それが俺に対する脅しだって
ぞわぞわと尻がこそばゆくなるようないやな感じがする位置で刃物を構えられて、思わずじろりと睨みつける。
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