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ひざまずいてキス 34

  「あんたもグルだったんか」  おっさんから女になった手品のタネはわからないが、なんかそう言うのがあるに違いない。 「どう思う?」 「……あんたは、胸のちっさい方のねぇちゃんだろ」  女の顔が一瞬動きを止めたような気がして…… 「当たりだろう?」  へへって得意げに言ってやった瞬間、目の前をきらりと光りが翻ってナイフの切っ先が目の寸前に迫る。  ふわりと空気だけが動いて、ほんの少し動けば目に食い込みそうだった。 「   大神、どうする?」 「大場組の目的は?」 「…………」  目の前の切っ先を気にする素振りを見せると、女がやっぱり大神に指示を仰ぐ。  軽く手をあげただけだったのに、女が刃物を下ろすところを見るとよっぽどイシンデンシンなんだろう。 「こんな回りくどいことをして、あいつらは何を探ろうとした?」 「俺みたいな下っ端が知らされてると思う?あんたらこそ、こんな回りくどいことして俺から重要な情報が取れるとでも思ってんの?」  へらっと笑ってやると、大神が眉を寄せた。  がっちりとした……飾りの筋肉じゃないその体格で不機嫌な顔をされると、真横に刃物を持った奴がいるって言うのに大神のほうが恐ろしく感じる。 「では、お前が自分の部屋だと言っていたあの部屋の持ち主はどこに行った」 「……?」 「へ?」って声が出そうになったのを寸でで堪えて、にやっと笑ってやった。 「答えろ」 「ああ、あの人ね」  そう言ってやると、ナオちゃんがはっとしたような顔をした。  俺が散らかす前は、男の部屋かと思うくらい片付いていて、髪の毛一本落ちていないほどで……  俺が知ってるのは、それくらいだ。 「  その人なら  ────っ」  さっと両足を振り上げて、ねぇちゃんの持つ刃物の上に振り下ろす。 「あっ」  ほんの少しずれてたらって思うけど、そのスリルがいいんだって冷静に思う自分もいる。  ぶつんって音がして足の拘束が解けた勢いを借りて、そのまま一気にねぇちゃんを蹴り飛ばす。  女を蹴るとかちょっとなって思ったけど、おっさんの時は男の体格だったってことを思うと……  女か男かわからねぇ。  むしろどっちでもないのかもしれねぇけど。  声もなく倒れたのを目の端に入れながら、大神に向き直る。  壁にもたれながら体を休めて、ちょっと楽になって来たけど大神に擦り下ろされた頭がガンガンと痛んで、心臓が応えるみたいにどきどきしている。  ナオちゃんは多分、この状態でもどうにでもなるんだけど、問題は大神だ。  入り口は遠い……窓は大神の向こう。  ドアは蹴破らなきゃならない……窓は割らなきゃならないし、ここは二階だ。 「…………」  窓だな。  蹴り飛ばしたねぇちゃんが起きなければ嬉しいけど、無駄な希望かもしれない。

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