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ひざまずいてキス 35

 あんな蹴りで沈んでくれるような奴なら、大神は使わないだろう。  真っ向から組み合ったら大神とは絶対に勝てない。    少しでも可能性のある窓に向けて走り出す。  二階からだが人がいればこれ以上は手出しされないだろう。  最悪、骨を折るくらいで済んでくれたらいいけど……  とっさに俺を掴まえようとして手を伸ばしたナオちゃんの腕を蹴り上げ、バランスを崩して死角になった方から抜けて窓へと一気に走り寄る。    躊躇ったらお終いだ。  窓のガラスがドラマみたいにもろくないのは身をもって知っている。  だから、出来るだけ勢いをつけて……   「  ────馬鹿が」  俺に蹴り上げられたせいでバランスを崩したナオちゃんが、苦そうな顔でそうポツリと零したのを聞いた瞬間、  ごんっ  脳の真ん中にまで響くような音と、弾む感触に思わず呻いた。  また後頭部でぶちぶちって音がして……  もう一度ごんって鈍い音がして、頭が何かに弾む。  いつの間にって考える間もなく、大神の手が俺の頭を窓ガラスに叩きつけた。    たわむ分、壁より衝撃がないような気がするけど…… 「  ────っ‼  っ!」  顔面をガラスに叩きつけられて息が止まりそうだ。 「そんな安っぽいガラスを使うわけがないだろう?」  この大男に、力一杯叩きつけられても、俺の血をべちゃべちゃにした窓ガラスは割れる気配がない。  ナオちゃんが「馬鹿が」って呟いたのが、逃げたことじゃなくてガラスのことだったんだなって思う頃には、窓ガラスが真っ赤になっていた。   「っ……ぅ……」  絶対ハゲてるって思えるぐらい、大神が俺を振り回す度に毛の抜ける音がする。 「どうした?怯えて命乞いでもしないのか?」  挑発してくるような笑いを含んだ言葉に、くらくらする頭でへって笑ってやった。 「あん た、らは、あの男の……情報っが、欲しいんだろ?」  逆流した鼻血で噎せると、赤い雫がぱっと飛び散って大神の服を汚す。  それを、ぼんやりとしてきた頭でざまぁって思っていると、投げ捨てるように放り投げられる。 「  ぃ゛っ」  顔面が痛い、  頭も痛い、  肩も、  足も、  締め上げられている手は感覚がなくて冷たくて、痛いのかどうかなのかすらわからない。  体中が重怠くて、立ち上がろうとしたのに足に力が入らなかった。 「まだ抵抗するのか」 「はは。だって、話……したら  それこそ俺、用済みだろ?」  まぁ、あの部屋の男について何も知らないってわかったらそこで終わりだけど。 「ぁ、あんたらがっここから俺を解放して、病院に……放り込んで  くれたら話してやるよ」

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