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ひざまずいてキス 36

   口の中の金臭さに耐え切れず、ぺっと唾を吐き出すと唾液と言うよりはただの血液だ。 「随分といい度胸だな?この状況で俺に取引か?」 「へ、へ」 「さすが、ティグオンのリーダーだった男だな」  懐かしい名前に、ぽかんと顔を上げる。 「相良大我。相良流の次男であり、お前だけが源流の祖父に仕込まれたそうだな。族の解散騒動で院に行き、その後は中華料理屋で住み込みバイトをしている」 「事前に、調査済みっ て、わけ」  じゃあ、俺が何にも知らないって言うのもバレていると思った方がいいのか……  口の中に溜まってきた血を床に吐き出し、へらへらと笑うしかない。  さんざん頭をぶつけたせいか足が震えて立ちあがれない、これじゃあ逃げようとしたところで倒れ込むだけだ。  出血のせいかぼんやりし始めた頭をどうにかしようと歯を食いしばるも、奥歯が緩んでいるのか神経に触るような痛みが響いてくるだけだった。 「その名前も相俟って、初代の再来と言われていたそうだな」   そんな仲間内だけで言っていたような、下らないことまで調べ上げていたのかと、瞼がうまく開かない目で睨みつける。 「じゃあ全部、わっ……わかって、んだろ?」 「   」  血まみれの皮手袋が鈍く光って、もうそれだけで次は何をされるんだろうかって想像してしまう。 「女遊びも激しいそうだな」 「……女、とは、  限んねぇけどな  ────っ」  言った瞬間、ごっと硬い爪先がみぞおちを抉った。  弾むように転がって、でも大神を睨み上げる。 「ここまでされて、まだ強気だな?性格か?それとも、まだこれが有効だと?」  後ろのナオちゃんに指で合図すると、見慣れたUSBがぽとんと投げて寄越される。 「……は?なんで  」  なんで……じゃない。  気にして当然だったのに、俺に馴染んでいくナオちゃんに気が緩んで、部屋に入れた後に確認するなんて頭はなかった。  あんなものがあってもなくても、別にナオちゃんは俺に気を許してくれてるんだって……   「あの時、具合……なんて、悪くなかっ   ?」 「直江が世話になったな?お陰でゆっくり探すことができたそうだ」 「…………」    気を許していたのは……俺?  ちょっとずつ縮まる仲に気をよくして、少しずつ気を許してくれているんだってことに嬉しくなって……  強引だったし、メチャクチャだったし、土田先輩に言われたとおりにありえないことだってわかっていたのに、なんだかんだ俺といる時につまらなそうな犬の顔じゃなかったからって……    

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