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ひざまずいてキス 37

   人間らしい顔をしてたからっ! 「ナオちゃ   っ直江っ‼」 「気安く呼ぶな」 「んなことっ  い、ままでっ言ったことなかっただろっ!」  怒鳴り上げたのに血が詰まって盛大に噎せた。  血まみれで床に這いつくばる俺と、絶対的な強者として俺を見下ろす大神と……  どっちに気が向くかなんて、俺でもわかる。  いや、どっちに向くかとかじゃなくて、ナオちゃんの気持ちなんて俺の方にはこれっぽっちも向いてなかったってことだ。   「…………」 「それで?あの部屋の男の名前は?」  咳き込み過ぎて、ひゅうって喉が鳴ってる状態で聞かれ、思わずへらりと顔が歪む。  そこまでして、夜逃げだかなんだかした男の名前が知りたいのかと思うと、どうしようもないおかしさが沸々と湧く。 「……知らねぇよ」  ぽつんと呟いた言葉に、大神もナオちゃんも返事をしなかった。  もしかしたら、嘘だって思われてるんかなって思うけど……  なんかもう、どうでもいい気分だ。 「呼ばれていた名前くらいは知っているだろう?」  低い声は威圧感があったけど、もう体が怖さに反応してくれない。  ちら と俺を見下ろしたままのナオちゃんに視線をやって、「ナオちゃん」って小さく呼んだ。  返事とかもらえるとは思ってなかったんだけど、ナオちゃんは俺の方に近づいて屈みこんでくれた。 「ナオちゃ   」   「幾ら調べても、名前の書かれたものが一切なかった」  俺にかけられた言葉は思ってもなかったことで……  罵られるか、馬鹿にされるか、叱られるか、なんかそんな感じのことを言われるだろうなってぼんやりと思ってたのに、言われたのは俺のことじゃなくてあの部屋の持ち主に関することだった。 「なに……」  ナオちゃんが、あの部屋に来るたびに甲斐甲斐しく服を畳んで部屋を片付けてくれていたのは……  USBを探しているとか、俺の世話を焼いているとかそう言うんじゃなくて……?   「あれも、仕事、だった?」 「他に何があるんだ」  不機嫌そうに吐き捨てられて、どっと心臓が跳ね上がった。  どうしてだか急に締めつけられるように痛んで、他の怪我の痛みなんて非じゃないくらいに息が詰まって苦しくて。  はくはくと口を動かしてみるも、出せる言葉が見つからない。   「何も、知らないのか?」 「…………」  「あ……」とやっと出た声は小さくて、ナオちゃんは顔をしかめて俺を見る。

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