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ひざまずいてキス 40
本業ヤクザに掴まってボコられて、そこで人生お終いでもおかしくないのに、ナオちゃんは入院中に何度も顔を見せてくれていた。
俺から引き出せる情報がないってわかった段階で、ナオちゃんが俺に構う理由はない。
例え、これが大神の指示だったんだとしても……
「あの、ごめ 」
一応心の底から告げてはみたんだけど、結局あの言葉に対して返事も何も、反応すらもらえなかったって言うのはちょっと悲しい。
冗談と思われたのか、それともただの命乞いって思われたのか。
命が助かってるんだから、命乞いだと思われてるって言う方が濃厚だな。
「俺は滅多に帰らないからな」
「へ⁉」
「それでもいいなら住めばいい」
えって顔を上げると、前を歩くナオちゃんの耳が少しだけ赤く見える。
「あ、え⁉いいの!?」
「お前が言い出したんだろ」
拗ねたような顔で振り返って、やっぱり俺を睨む。
「なんだ、やっぱり出まかせだったか」
「ち、ち、ちが ちがうっ!」
急いで駆け寄って拳になった手を握ると、ひんやりと冷たくて汗ばんでいるようだった。
睨みつけているようなのに、まっすぐ俺の方を見ない目の下は少し赤くて……
「ナオちゃん?緊張してる?」
「違う」
俺とおんなじ言い訳をして怒ったふりをするけど、腕を振り払われることはなかった。
「俺っ!……俺はっボコられてもナオちゃんのこと好きだ!」
「…………」
「愛してるからっ!」
ぎゅって握ったままの手がぬるってして、ナオちゃんだけでなく俺も緊張してるんだってわかる。
決死の告白の返事をもらえるんじゃないだろうかって、じっとナオちゃんを見詰めた。
「で、も……お前は、すぐほかの所に行くじゃないか」
「他?…………ああ、あれは、だって、向こうがヤらせてくれるって言うか…… 」
慌ててぱくんって口を閉じたけど、赤かったナオちゃんの目元は元通りだったし、握り込んでいる手は逃げようとしている。
「や、ちが、違うから!えっと付き合いがあって……」
「もういい!野垂れ死ね!」
「ちがっちがぁっ‼もうしないからっもうしないってっ!」
逃げようとする体を押さえつけると、周りの目を気にしてかすぐに大人しくなって項垂れた。
「えっと、だから、もう他に手を出したりしないってっ」
「それから?」
「あと、誘惑に負けたりもしないからっ」
「で?」
「え……っと、もうナオちゃん以外ふらふらしないからっ」
力の抜けた手を弄りながら、そうやって繰り返す。
「だからさ、俺のになってよ」
「…………」
縋るような気持ちでいると、ナオちゃんの手がくいって握り返してくれる。
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