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手作りの楽園で 2
「なんか、病気なのかな」
自分がおかしいのかもしれない。
どこか体が悪いのかもしれない。
そう思うと自分のしたことが恐ろしく思えて、慌ててティッシュで手を拭って布団に潜り込んだ。
「たろちゃんに相談したら教えてくれるかな?」
頭が良くて、足も速くて、何でも知ってて、頼りになる幼馴染。
聞けば……いいのだけど、
「もし僕の体が変だったら……嫌われるかも」
ぎゅっと布団を握って、でも多郎太はそんなことで人を嫌いになるような奴じゃないって自分に言い聞かせようとする。
多郎太は優しくて、人を傷つけるような奴じゃない。
でも、僕が男なのに多郎太のことが好きだなんてばれたら、きっと多郎太だって気持ち悪がるに決まってる。
「僕、たろちゃんに嫌われたら生きていけないよ」
太陽みたいに笑う多郎太の顔を思い浮かべただけで胸の辺りがきゅうっとなって、ドキドキしてしまう。
僕はこれは恋で、でも男が男に……なんて不毛なことなんだってちゃんとわかっていた。
忘れずにお守りをポケットに入れて家を出て、学校に行くには少しだけ遠回りになるけど嗚女河 神社の方へと向かう。
ここは行き交う人達は皆顔見知りってくらいの田舎で、町内の目玉は多郎太の家の神社か河川敷の桜かってくらいしかないような場所だった。
そこで、多郎太と僕は同じ年に産まれた幼馴染だ。
「おはようございます、たろちゃん?いますか?」
社務所を覗くと、多郎太のお父さんが机に向かっているところだった。
毎朝のことだから、にっこり笑って多郎太はまだ家の方にいるよって教えてくれる。
「ありがとうございます」
「ああそうだ、倫ちゃんはもう進路決めたの?」
「えっ」
神社の隣に行こうとしたところに尋ねられて、思わずぴょんと跳ねてしまった。
重い通学用鞄の中には、白紙のままの進路希望調査があって……
担任にせっつかれているせいか、そのことについて尋ねられると叱られてるんじゃないかなって気分になって落ち着かない。
「まぁ倫ちゃんはしっかりしてるし、大丈夫か。たろにもちょっとしっかり考えるように言ってやってよ」
「はい」
って返事を返すけど、きっと多郎太は僕なんかよりずっとしっかりした将来を考えてると思う。
神社の奥にある道を通って家に行くと、庭先で多郎太がモチとボールで遊んでいるところだった。
真っ白な犬と戯れるイケメンって言うのはそれだけで絵になって……
木の影からこっそり眺めて堪能してしまう。
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