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手作りの楽園で 4

 もちが叱られた時のように、大きな体を小さくしてこちらを窺う様子に怒ることなんて出来なくて、しかたなく一人で帰るよって笑って返す。 「ごめんな?それと、いつもの道は通るなよ?」 「……ん」  学校までの一番の近道の道はちょっと人通りが少ないし、木々が鬱蒼となった廃屋があったりでちょっと危ない感じのする道だった。  一人で帰らなければなんてことはないんだろうけど、以前にその道を一人で歩いていて暴行を受けた人がいるから、僕みたいなよわよわな外見の人間はあんまり近づかない。 「走って行くから大丈夫だよ」 「りん、足遅いのに?」  う……って言葉が詰まってしまう。  多分、僕の全速力と多郎太の早歩きは一緒くらいのスピードだろうから。  まっすぐに僕を見る目は真剣に心配していて…… 「橋の方から帰るから」  僕には多郎太の心配を裏切るような真似はできなかった。  少し遠回りになるって言っても十分も変わらない。  僕がこの道を通りたがらないのは、その十分を惜しんだって言うわけじゃなくて、途中にある橋を渡るのがすごく嫌だったからだ。  ふるーいふるーい昔は吊り橋だったとか言うけど、今ではきちんとされていて車も通るようなしっかりとした橋だ。  人通りが少ない訳でもなくて、むしろ一人でこの橋を渡るタイミングを測ろうとする方が難しいくらいの、そんな橋なんだけれど……  僕はどうしてか、この橋が怖くて怖くて仕方がない。  橋の入り口には『蛍返り橋』なんてちょっとロマンチックな名前が書かれているけど、僕にとっては全然ロマンチックな橋じゃなかった。  別にここで誰かが亡くなったとか、大きな事故があったとか、吊り橋時代に曰くがあったとか言うわけじゃないのは、散々調べて納得している。  でも、どうしてだか、怖い。  そろりと足を踏み出すと、氷を踏んだかのようなぞわりとした感覚が足の裏から這い上がってくるような気がする。  ただ、ただ、嫌悪感が…… 「大丈夫。大丈夫」  胸の前でぎゅっと鞄を抱き締め、一気に走って渡ってしまえばどうってことないって自分に言い聞かせる。  ちくちくと全身を小さく細い針で突かれているような、そんな気分で駆け出した。  圧し掛かるような、威圧感。  睨みつけられるような、視線。  寒くないのに感じる、冷気。 「や……や、や……」  いやだ って言葉が自然と漏れる。  一生懸命足を動かしているのに、全然進まない気がしてくるのはそれだけこの橋の上の空気がへばりつくように重たいからだ。    苦しくて、涙が目の縁に溜まる。  体中が痛くて、息が切れて倒れてしまいそうだった。  

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