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手作りの楽園で 5
「わっ!」
息を詰めて一気に走り抜けようとしたのに、途中で酸欠になったのかくらくらして足がもつれてしまった。
幸い通りがかった人が抱き留めてくれたけど……
「君、大丈夫?」
「あ……あの、ごめんなさい」
大きな手が僕をしっかりと支えながら、すぐそこだった対岸まで連れて行ってくれる。
そこまで行けば、少し開けていてベンチがあったから。
「すみません……」
「貧血かな?お腹空いてるとか?」
「え?」
ぽんと手渡されたのはメロンパンだ。
それもただのメロンパンじゃなくて、いい匂いのする焼き立てのメロンパン。
甘いメープルシロップの匂いが辺りいっぱい広がって、思わずお腹がくぅって音を立てた。
「わっわっ……あのっ僕は全然……」
申し訳ないから断ろうとするのに、僕のお腹の虫はそれを裏切ってまたくぅくぅと音を鳴らす。
そりゃ……ちょっと小さめだけど健康な高校男子なんだから、下校時間にお腹が空いてないなんてまずあり得なくて……
「いっぱい買ったからどうぞ」
ちらりと助けてくれた人を見ると、抱えられた紙袋の中はパンで満たされているのがわかる。
「えっと」
それでも言葉を探そうとした僕を裏切るように、今度はぐぅと可愛くない音を立てた。
「っ!?……いただきます」
ぱくっと齧りついたメロンパンはカリカリなのにふわふわで、中からメープルシロップがじゅわりと溢れ出してくる。
商店街にすらならない、生活関係のお店が何件か並んでいる所にあるパン屋のメロンパンだ。
多郎太とお小遣いを握り締めて小さな頃から通った店の、変わらない味にほっと肩の力が抜ける気がした。
「やっぱり空腹だった?」
「あっ!すみませ……っありがとうございました!」
そう言えば今までお礼も言ってなかったと気が付いて慌てて頭を下げる。
頭の上から笑いが降ってくるから、長い間頭を下げているのも気まずくてそろりと相手を見上げた。
大人……って言うにはちょっと言い過ぎだけど、僕と同じくらいと言うには大人びていて、はっきりとした年齢はわからなかったけれど僕より年上なのは確かな感じだ。
にこにことしている表情は初対面だけれど懐こく思えて、緊張せずに済みそうだった。
『仙内』と名乗ったこの人は、多郎太のお家の神社に参りに来たのだけれど場所がいまいちよくわからずにうろうろしていたのだと教えてくれた。
「それならうちの近くなので案内できます!」
「いいの?」
「はい、どうせ家に帰りますし」
転びそうになったのを助けて貰って、パンまで貰ったんだからじゃあこれでって言って放り出すわけにはいかなかった。
お礼になるのかは分からなかったけど、どちらにせよ神社は家の方向だし……
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