292 / 714

手作りの楽園で 6

「ありがとう、助かるよ。逆に申し訳なかったかな?急いでたんじゃない?」 「えと……」    橋を駆けていたんだからそう思われても当然だ。 「や、そこまで急いではなかったんですけど……あの、あんまりゆっくり渡りたくなくて」 「怖いから?」  間髪入れずに返された言葉にはっと顔を上げて仙内を見上げる。  今まで、あの橋のことを友人たちに聞いても何も思わないって答えしか返って来なくて……  多郎太ですらあの場所が怖いんだって言う僕の言葉に半信半疑だった。 「は、はいっ」 「あぁーそうだよね」  うんうんと頷かれて思わず足が止まってしまって。 「え?え⁉」 「チクチクするって言うか、圧迫感があって苦しいって言うか」 「えっぇっ……!そうですっ!そうなんです!」  いきなり大きな声を上げた僕に、仙内は驚いたように目を瞬かせてから、小さく苦笑した。 「他に気づいてくれる人、いなかった?」 「は……はい」  あの橋を渡る時に感じる奇妙な恐怖に同意してくれたのは、仙内が初めてだ。  考えすぎじゃない?とか、嫌なことでもあった?って返されるのが普通で…… 「あの、仙内さんがどうしてそう思うのか聞いてもいいですか?」    さっき会ったばかりの人間にこんなことを言われて、困るだろうなとか変な人に思われるかなとか思わなくもなかったんだけど、でもどうしても知りたかった。 「俺も怖く感じるからだよ」 「それは……」  理由になっていると言えるのか言えないのか…… 「そ、そうですか」 「んー……そうだな。倫くんには道案内もして貰ったし」  仙内は立ち止まったままの僕の傍に来て、制服のネクタイピンを指差した。 「それちょっと借りていい?」 「これ……ですか?」  訳がわからないし、初対面の人間に手渡すには勇気が必要だったけれど、あの橋のことは大きな問題で……  僕の家から遠出しようと思うといつもの通学路かあの橋を渡るしかなくて、どちらも安易に行き来できないって言うのは不便でしょうがなかった。  幸い、多郎太は僕と出かけるのを嫌がったりはしないけど……  毎回毎回、いつまでもそれじゃ駄目だってわかってる。  だから藁にも縋る思いで仙内にネクタイピンを渡した。 「まぁ気休めだと思ってよ」  そう言うと仙内は左耳の輪になっているピアスを外してネクタイピンの端に通す。 「このピアスね、由緒あるトコのお守りなんだけど、厄払いの効果があるんだよね」  ピアスが簡単に外れないのを確認してから、仙内はネクタイピンを返してくれる。 「そんな大事なものを貰うわけにはっ」 「ああ、普通に売ってる奴だから」  右側のピアスをチャリンと鳴らして仙内は笑う。

ともだちにシェアしよう!