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手作りの楽園で 8

「もしかしてメープルメロンパン?」 「うん、腹減ったから、一緒に食べようと思って」  カリカリのクッキー部分にふわふわの生地、そして甘いメープルシロップはとても美味しそう……なんだけど、仙内に貰って食べたばかりのせいか飛びつく気にはなれなかった。 「おいしそうだろ?」 「あ、う、うん」  とりあえず受け取って部屋の中に入ってもらう。 「どした?」 「うぅん!なんでもないよ!今日のバスケどうだった?」  部内の対抗だとか聞いてたけど……それに助っ人を呼んでいいんだろうか? 「そりゃもちろん!」  大きな手でピースを作るから、僕も嬉しくなって笑いが零れる。 「そのせいでまた勧誘されたけどさぁ、そんなことしたらりんとつるむ時間なくなるだろ?」 「うん」  僕といるための時間の方を優先してくれたってのが嬉しくて、もじもじと肩をすくめた。  多郎太にとってはなんてことない言葉なんだけど、格好良くて運動もできて頭もいい多郎太がそう言ってくれるって言うのは、ちょっと特別な位置にいるんじゃないかって思えて胸の中がくすぐったくなる。  嬉しくて、顔が熱くなって……  胸があんまりにもドクドク言うから、誤魔化すために飲み物貰ってくる!って言って部屋を飛び出した。  多郎太がくれた言葉と、汗の匂いが甘いメープルの匂いと絡んで、肺の奥の奥まで満たされて行くような、そんな不思議な心地だ。  甘い、細胞を撫でるような…… 「熱あるんじゃない?」  台所で夕飯の支度をしていた母が僕を見て心配そうな顔をした。 「そんなことないけど」 「熱計って、たろ君には悪いけど早めに帰って貰って休みなさい」  触ったほっぺたは熱くって、母を心配させてしまうのも当然だった。  盆に乗せたジュースを持って、多郎太にはこれを飲んだら帰って貰わないと……って考えながら部屋に戻る。 「たろちゃん?あのね、ちょっと熱があるみたいだか……」  思わず声を潜めてしまったのは、多郎太がベッドの上で大の字になってるのが見えたからだ。  疲れてるんだろうな……それでなくても今日は授業に体育があったし、バスケの助っ人もあった。  幾ら毎朝ランニングしてるって言っても、さすがに今日はいっぱいいっぱいなんだろう。  音を立てないようにジュースを置いて、そろそろと足音を消してベッドの方へ忍び寄る。  僕には十分な広さだと思うんだけど、多郎太が寝転ぶと窮屈そうだった。  手足が長いせいか、伸ばされた片腕は外にはみ出してしまってる。  男らしくて、でも優しくて……  寝顔だけでもずっと見ていられそうだ。

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