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手作りの楽園で 9

 寝息と、それが少し荒くなるとイビキっぽくなって……  それがちょっと面白くて笑いが漏れる。 「たろちゃんお疲れさま」  漫画とかだと、ここでこっそりちゅーしたりとかするんだろうけど、さすがに起きちゃう……よね。  それに、気づかれたら何も言い訳出来ないし。  多郎太が僕の傍に居てくれるのは、僕が幼馴染ってだからだ。  だから、僕が多郎太を好きなんだってばれて、その位置すら失ってしまったら…… 「僕、こうやって傍にいれたらそれでいいんだ」  ベッドの縁に頭を乗せて、規則正しく胸を上下させる多郎太の寝顔を見詰める。  多郎太の傍で、こうやってドキドキしながらいることができたら……    宿題の確認も終わって、いつもの通り多郎太から貰ったお守りを枕元に置こうとして手を止めた。 「……そう言えば、仙内さんのもお守りって言ってたっけ?」  クローゼットの中に片付けた制服の胸ポケットからネクタイピンを取り出して、迷ったけれど試しにと多郎太のお守りの代わりにそれを置く。  なんだかちょっと罪悪感があったけれど、あの橋の怖さに対抗できるなら、あの悪夢にも対抗できるんじゃないかって言う試してみたい気持ちもあって…… 「今日だけっ今日だけだから」  別に誰にバレたとしても問題ないことなのに、なんとなく多郎太に申し訳なく思って手を合わせて謝罪を繰り返した。  ぱちりと目が開いた時、飛び上がりそうになって寸でで何とか堪えた。 「……ぐっすり……だったぁ」  ぽかん……と、何も起こらなかったことに拍子抜けしてしまって、逆に自分が悪夢を見るのを待ち望んでたんじゃないかって思ってしまった。    ネクタイピンにつけられた小さな輪っか。  銀色に、小さく青い飾りがついているくらいで特別不思議な感じはなくて…… 「これ、どこのお守りなんだろ」  小さい頃から嗚女河神社のお世話になっている身としては、他の神社のお守りに感動しているのはちょっと心苦しいんだけど、効果があったのは事実だ。  これならあの橋も普通に渡れるかもしれない。  そうなったら、多郎太の手を煩わせる事無くもっと外の世界に出て行ける。 「高校卒業したら……離れ離れかぁ」  とは言え、自分自身は進学か就職かも決めてないんだけど。  それでも多郎太と別の道を行かなくてはいけないのは決まっている。  そう思うとちょっと憂鬱になってしまって、制服を着る手も遅くなってしまう。  こうやって服を着るのをゆっくりしたところで、多郎太との高校生活が長くなる訳じゃないのに。  

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