296 / 714

手作りの楽園で 10

 母に注意されて慌てて時計を見ると、いつも多郎太を迎えに行く時間を過ぎていて…… 「ええっまだ顔洗ってないのに!」  のんきに着替えていた自分が悪いのは承知なんだけど、多郎太に先に行ってくれって連絡をするのが悔しくて仕方がなかった。  待つよって言ってくれる多郎太に遅刻すると悪いからって返事を返して、急いで身支度を整えて家を飛び出す。  本当なら神社の方に行くところだけど、多郎太はもう家を出ているだろうから橋の方に走り出した。 「もっ……ホントやだ……僕のばかっ」  学校に着けば多郎太は人気者だから、僕がそんな多郎太を独り占めできるのは朝の時間と放課後だけなのに。  特別な会話なんてしないけど、それでも多郎太と肩を並べて歩く時間は特別だった。 「……っ」  橋の前に着いて、思わず一度立ち止まった。  仙内からもらったお守りの効果は今朝実感できたけど、橋はどうかな?  普通の、コンクリートでできた橋。  多郎太がランニングコースなんだって言ってた橋。  なんの変哲もない……    そろりと足を踏み出そうとして、ポケットに入れた携帯電話が鳴り出したことに思わず「ぅひっ」って変な声を上げて飛び上がってしまう。 「たろちゃん!?」 「りーん!なんでまだ来ないんだよ!もうそろそろ遅刻だぞ」 「えっ⁉」 「ぎりぎりまで待つからって連絡見てない?」  慌てて携帯電話を操作すると……  返事だけして慌ただしく準備していたから気づかなかったようだった。 「ご、ごめっ」 「あー……いい、いい。で?今どこ?」 「橋のとこ」 「えー……」  困ったような声。  携帯電話の時計を見ると、もうギリギリだ。  いつもの道なら間に合うだろうけど、神社から橋の方の道を通って登校しようとすると遅刻するかもしれない。 「僕こっちから行くから、たろちゃんそっちから行って!たろちゃんなら間に合うでしょ?」 「えっでもお前、渡れるのか?」 「だい、大丈夫っ」  はっきりと返事を返せたのは、電話の最中に踏み出した足がぞわぞわとしなかったから。  いつもみたいに圧しかかるような怖さがなくて、寒気もしない。 「僕、大丈夫だから!」  行き交う他の人と同じように橋を歩けることに、思わず声が弾んだ。  電話の向こうの多郎太は戸惑っていたようだったけれど、「遅刻しちゃうよ」って声をかけたら走り出したようだった。  机にべたりと体を預けてほっと息を吐く。  いつも余裕を持って登校しているから、こうやって遅刻ぎりぎりになったのは初めてかもしれない。  僕が席に着いてから少しして、肩で息をしながら多郎太が先生にからかわれながら教室に入ってくる。  

ともだちにシェアしよう!