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手作りの楽園で 12

「いった……た……。たろちゃん?」  硬い床の上から振り返ると、大きな多郎太はまるで圧しかかるような雰囲気で……  思わずびくっと肩が跳ねた。 「倫、なんでそんなのつけてるの?」  声はどうしてだか今まで聞いたこともないほど低く、冷たく、固く……重い。  かくんと腕の力が抜けて床の上に倒れ込んだ。  それはまるで声の重さに押し潰されるようで、胸を押さえつけられたみたいに肺の空気が抜けてひゅうと鳴った。 「た、ろ   」 「くっさい……」  すんすんと鼻を鳴らした多郎太がまるで犬のように臭い原因を探すかのように、顔を近づけてくる。 「やっやぁ……たろちゃんっ!僕、走って……きっとそのせいだよ!や、止めて」  無遠慮に首元を嗅がれて、恥ずかしくて堪らない。  自分自身に臭い場所があるのだと思うと、しかもそれをよりにもよって多郎太に嗅がれるなんて耐えられないくらい恥ずかしい!  ジタバタと手を振り回して多郎太を遠退けようとしたけれど、どうしてだか今の多郎太にそれが通じるとは思えなかった。 「これ、か?」  訳も分からないままネクタイを引っ張られ、険しい表情のままそれを睨みつけて……  仙内に貰ったお守りが止まっているネクタイピンにぴたりと視線を止める。 「なに、これ」 「こ……これって」  ネクタイピンからピアスを力づくでむしり取り、窓に駆け寄ってそれを投げ捨てた。 「た、たろちゃん!何するの!?それお守りなのにっ」  粗末に扱うなんてバチがあたる……って言おうとしたのに、乱暴に押し倒されて言葉が出ない。  「た、た……たろちゃん、ごめん……よそのお守りなんて……」  覆い被さる多郎太が怖くて視線を向けることができない。 「も、もう……し、しな……」  ひゅう と息が喉を通るけれど、ちっとも呼吸できたと思えない。 「倫」 「  っ」  返事をしようとしたのに声も出なくて、それでも何か反応を返さないといけないと思ってそろりと視線だけを向けた。  よその神社のお守りを持ったことが、ここまで多郎太を怒らせてしまったんだと思うと、申し訳ないことをしてしまったなって思いが沸き上がる。 「たろちゃんが怒るの、よくわかるよ、でも仙内さんが上げるって言うか   っ」  ガチ と響くような痛みに言葉は続けることはできなかった。  代わりに、口に押し付けられた柔らかな唇と、噛みつくような歯の感触に頭の中が真っ白になって……  今、自分が何をされているのか、全然理解ができなかった。  長い指に内をこねくり回されて、内臓が押し上げられて苦しくて吐きそうなのに口から出るのは甲高い喘ぎ声だ。  誰の声なんだろうって思うくらい、高くて言葉になってなくて粘っこくて……いやらしい。    

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