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落ち穂拾い的な 嗚女河神社
「こら!多郎太!」
親父に強く名前を呼ばれると、反射でどうしても飛び上がってしまう。
「なんだよ」
「お前は神社の名前もちゃんと書けないのか!」
どんって出された作文を見下ろすと、親父が「鳴女河神社が僕の家です」って一文が見えた。
「なん、なんだよ、あってるだろ?」
この間の授業参観で読んだ作文だ。
恥ずかしくなって慌てて隠すと、怒り顔の親父をそろりと見る。
「お前はっ!」
ごつんって拳骨を食らって涙目になっていると、親父がメモ用紙にさらりと「鳴」の字を書いて、隣にもう一個同じ字を書いた。
「良く見ろ!」
「んだよ、同じだろ」
ブツブツ文句を言いながらメモを見るけど、ぴんと来ない。
「お前が書いたのは鳴くだ。この神社は嗚くだ」
そう言われて改めて見れば、線が一つ多い。
「え……」
「悲鳴の『めい』じゃなくて、嗚咽の『お』だ。そんなんでどうするんだ!」
「意味変わんないよ」
「変わるだろうが!」
この神社の名前は町を流れる川に由来する。
神様が流した涙で出来た川だとか、神様が泣いた涙で氾濫したとか、いろんな謂れがあるのは知っていた。
「もうこっちでよくない?皆気にしないよ」
「多郎太ーっ!」
一際大きな声で怒鳴られて肩をすくめる。
頭の上から降ってくる説教を聞き流しながら作文の中の文字に目を落とす。
『なきめがわ』
胸中でその名前を繰り返し、ふと思いついた読みかたを口に出してみた。
「 ────おめが」
END.
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