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運命じゃない貴方と 7

「お土産買うて帰る言うたから、何がええやろか?」  今にも飛んで行きそうなほど軽い足取りで先を行く咲良に、お付きに任命された組員達が大慌てでついて行く。 「お酒とか、失せものは寂しぃしな、なんかええ案ある?」 「若はお嬢からいただけるのならなんでも喜ばれると思います」  ササキがそう言うと、咲良はちょっと拗ねたように唇を尖らせる。  そんなことはわかっている上で聞いているのに……と呻くように愚痴て、ササキの後ろにいた組員にも声をかけた。    「あ、ええと……身に着けるのならネクタイとか?」 「ああ、それええなぁ、普通のはおもろないからピンクとか?蝶ネクタイとか?」  組員はあの大神がピンクのネクタイを身につけているところを想像できなかったのか、複雑そうな表情で神妙に頷き返しただけだ。 「あの……お嬢は、若が怖くはないんっすか?」  その質問の意味が分からなかったように、咲良はきょとんと首を傾げて組員を見上げる。  咲良本人は気にしたこともなかったが、傍から見てそれでなくとも小柄な咲良が大神に臆することなく悪戯を仕掛けようとすることが理解できなかった。  上背のある人間でも大概見下ろせてしまう体格は、同じ男だとしても怯んでしまう。  なのに咲良は臆することはまったくなくて……  それが周りの人間には不思議で仕方がなかった。 「さとくんは……全然怖ぁないよ」  ふふふと笑う咲良は、大神のことを思い浮かべたのか頬を赤くする。 「すごい、優しい人やし。何よりかぁっこいいやん?うちの一目惚れなんよ」 「やさ  しいかは……俺にはわかんないっすね。あ、じゃあ二人は運命の相手とか言う奴っすか!?」 「おい!馴れ馴れしい。いい加減にしろ!」  ササキが横から小突くと、組員ははっとなって口を噤んだ。  また改めて教育をし直さなくてはならないと頭痛を覚えながら、組員を後ろへと下がらせようとする。 「運命……って、運命の番とか言う奴?おとぎ話やないん?」 「しんぴょーせー高いらしいっすよ?一目惚れだからそうじゃないんっすか?」  若頭の恋バナが聞きたかったのか、それともそう言うことに一番興味のある年頃なのか、ササキに押されても組員の口はとまらない。 「あれはアルファとオメガの話しやろ?うちはオメガやけど、さとくんはちゃうし……」  そう言うと咲良は少し寂しそうに微笑む。  話に聞く、αとΩにだけある特別な絆に憧憬を感じないわけではないと表情が訴える。 「え⁉︎違うんすか⁉︎」  組員の大声に、ササキは思わずゲンコツを落とす。

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