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運命じゃない貴方と 9

「説明をしろと言っている」  ササキは畳の上にできた自分の血だまりを見詰めながら、あの時咲良に起こったことを喋り出した。 「咲良お嬢様と買い物の最中、一人の男が近づいて参りました。その男を見た途端、いい匂いがするとおっしゃられて……」  咲良に向かって飛び掛かってきた男と、なぜだかその男に手を伸ばそうとした咲良を引き剥がしたのだと続ける。  大神はその言葉に目を細め、ササキの後ろでやはり土下座している傷だらけの組員達を眺めた。 「その一人の男に、お前らはここまで虚仮にされたのか?」  冷ややかな声に、ササキは血が止まりきっていない手を押さえながら「申し訳ございません」と呻く。 「その指もか?」 「はい、食いちぎられました」 「相手は?」 「それが  」  ササキはそれまでとは違い、口ごもった。  次の瞬間、薙ぎ払われた体が後ろの組員達の上に吹き飛び、緊張に張り詰めていた空気が弾ける。 「お前ら!その男をむざむざ逃がしたわけじゃあないだろうな!」  大音声に震わされた鼓膜を押さえて、組員達が怯えるように後ずさる。 「身元は分かっていますっ!」 「    」  無言の圧に項垂れながら、ササキはよろめきながら小さく呻く。 「滝堂組の、息子です」  それを聞いて大神の眉間に深く皺が寄る。  不愉快そうにしかめられた顔に嫌悪感を見つけて、ササキは震えて身を竦めた。  滝堂の息子は家業を嫌って家を飛び出したと言うことで有名で、大神は以前からその行動について不愉快だとササキに告げていた。  大神が暴れるのではと固唾を飲んでいると、ぐっと言葉を飲み込むように顔をしかめる。   「  っ、わかった」  人を怯えさせるような怒気を含ませた声にそう言われても、組員達は僅かの気のゆるみも見せることはできなかった。  呼吸の音ですら大神を刺激してしまいそうで、張り詰めた広間には微かな音もしない。 「ササキ、準備をしろ」 「……は 」 「そう言う取り決めだっただろう」  細められた目でササキを冷ややかに見下ろした。  ふらつく体を支えてもらいながら、白無垢に身を包んだ咲良は大神を見た途端、泣きそうな顔をして手を伸ばす。  まるで高熱を出したかのような赤い顔で必死に縋りつこうとする姿に、大神はとっさに駆け寄ってその体を支えた。   「さとくん……さとくんっ!」 「落ち着け」  そうは言うも、大神自身が困惑するほどの体温の高さに、さっと顔色が変わる。 「さとく……あっつぃ……あつい、くるし……」  譫言のようにしゃくり上げながら、咲良は自分の体の異変を切々と訴え続けた。  

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