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運命じゃない貴方と 14

「オメガと言うのはずいぶんと汚らわしい存在だな」  低く呟いたササキの声を聞く者はいなかったが、けれどその言葉ははっきりとその口から零れていた。  報告が待ちきれず、ササキの腕を振り払って大神が出ようとしたその時、バタバタと廊下を走ってくる音が響いた。  明らかに尋常でないその音は、何事かが起こったことを示す。 「若っ!」  息を切らせて飛び込んできた組員が「お嬢さんが戻られました」と告げた。  見つかった……ではなく戻ったと言う知らせに、その場の空気が張り詰めて今にも破裂しそうだ。  ササキは吸い込んだ息を吐けないままそろりと大神を見上げて……  けれど何かを言う間に大神は駆けるようにして部屋を飛び出した。  広いとは言え屋内の廊下がこんなにも長いものだと感じたことはなく、ササキは後ろを追いかけながら大神の表情を窺えないのを不安に思って顔をしかめる。 「  咲良っ!」  そう怒鳴る声はきつく厳しかったが怒りの声ではなく、その内に咲良への純粋な心配を滲ませたものだった。 「……   ……、さと、くん」  小さく枯れたような声が聞こえ、廊下にうずくまる咲良が見えた。  長く艶のある黒髪はもつれて乱れ、白い襦袢は泥と赤いものに塗れて…… 「っ  医者を呼べ!」  顔色を無くした大神が咲良を抱え上げると、小さな体が玩具の人形のように力なく項垂れる。  誰がどう見ても異様な光景に、気まずい沈黙だけが後に残った。    ガチャンと言う音に大神は煙草を灰皿に押しつける。  戻りました と顔を覗かせる直江のことを、今以上に憎々しく思ったことはないと、あかは自然と睨みつけた。 「えっ……駄目なタイミングでしたか?」 「何を馬鹿なことを言っている。風呂に行ってくる」  馬鹿らしいものでも見るような調子で直江に言うと、大神は普段の様子とは違い緩慢な動きで風呂場の方へと消える。 「機嫌を損ねてしまったようですね。ほら、何をしてるんだ、一緒に行ってお手伝いをして」 「え?」  小さい子供ならわからなくもなかったが、大人の大神が入浴するのに何の手助けがいるのかと、あかはきょとんと直江を見上げた。 「あ、着替えとか?……ですか?」  ぎろりと直江に睨まれて慌てて言い直すあかに、直江は持ったままだった紙袋を手渡す。 「君の着替えを入れてある。一緒に入って、背中を流したり、いろいろすることはあるだろう?」  直江のその意味ありげな言葉に、あかは頭を洗ったり?泡を流したりとか?と思いを巡らせた。 「小さい子供じゃないんだから、それくらいできるだろ」  むぅ……と不思議そうに言いながら、あかは大神の消えていった風呂場に向かった。  

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