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運命じゃない貴方と 15
あかが洗面所に入るとすでに大神は浴室に入っており、シャワーの音が聞こえてくる。
「背中ぐらい自分で洗えないのかな」
どうしても拭えない不思議さを口に出しながら「大神さん」と声をかけると、ややあってから返事が返ったのを確認してそろりと浴室への扉を開けた。
少しだけ開けた隙間から顔を覗かせると、龍や小鬼と目が合ってあかは思わず飛び上がりそうになる。
「わっ……えーっと、あの人に背中を流してくるように言われて……」
大神が険しい顔をして振り返ると背中が隠れてあかはほっと息を吐く。
それがただ皮膚の上に描かれた模様だと言うのは重々承知ではあったけれど、やはり睨まれてしまうといい気はしない。
「入るね」
中に入ろうとしたあかを押し留め、大神は濡れた髪を掻き上げて緩く首を振る。
「もう出る、向こうに行ってろ」
「え……でも」
このまま何もせずに戻ると、また直江に睨まれるんじゃないかとあかはもじもじと視線を逸らす。
特に意識して下げた視線ではなかったけれど、自然と目に入ってしまった大神の下半身に「ひゃあ」と奇妙な声を上げて飛び上がった。
項垂れているだけだと言うのに、それでも無視できないほどの重量感。
同じ男として自身が情けなくなることすら許さない存在感に、あかはまじまじと見入る。
「おい、見るな。出て行け」
さすがの大神もあかの不躾な視線に顔をしかめて手を振った。
「や……でも。でも……」
もじもじとしながらもあかの目は動かない。
きらきらとした黒い瞳に見つめられる気まずさに、大神はあかをぐいと押しやる。
「あの、それ……」
押されながらそれでも視線は下半身に注がれたままで……
無理矢理押し出して扉を閉めようとした大神を押し切り、あかはシャワーが流れ続ける浴室に飛び込んで大神の胸にしがみついた。
体を洗ったばかりなのか肌からはボディソープの匂いがしたけれど、その奥にはしっかりとした大神自身の肌の匂いが香る。
水滴のついた肌に頬を摺り寄せ、大神の匂いを嗅ぎ、それからぺろりと舌を這わす。
「何をやっている」
低い声は恐ろしいはずなのに大神の声だけは怖いとは思えず、そのまま引き剥がされないように力を込めてしがみついた。
服に水が滲み込んで重くなって行くのを感じながら、あかはすんすんと鼻を鳴らしてうっとりと目を閉じる。
濡れた服を通して感じる大神の体温に、自然とあかの手が撫でるように肌を辿っていく。
「おい」
引き剥がそうとすればできるはずなのにそうせず、大神は険しい顔で見下ろしているだけだ。
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