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運命じゃない貴方と 16
屈強な体を作る筋肉の筋を辿ると時折、ぽこぽこと不自然なふくらみが指先に触れる。
体に幾つもあるそれが傷跡なのだと気づいたのは、大神がくすぐったいからやめろと言って押し退けた時だった。
「俺は先に出る。温まってから出てこい」
つっけんどんにそう言うと、大神は浴室のパネルを操作してから出て行こうとする。
「一緒に入ろ……りませんか?」
大神が拒否の言葉を吐く前にあかは再び大神にしがみつく。
回り切らない腕で必死にしがみつくと、拙いなりに必死さのわかる動きでキスをしようと伸び上がる。
けれど二人の身長差はそれで補えるものではなくて……
「何がしたいんだ」
「ちゅ、ちゅーしたい です」
一笑に伏されて終わりかとあかが項垂れた瞬間、爪先がふわりと浮いて掬い上げられる感覚に「ひゃあ」とまた小さい声を上げた。
いきなりのことに慌てるあかの頬に熱い唇が触れて、あっと言う間に離れて行く。
「わ、わっ……」
これでいいんだろうとばかりの大神に放り出されそうになって、あかは必死に首にしがみついた。
「放せ」
「や!……です」
あかは大神の首筋に顔を埋める。
そうすると意識して嗅がなくとも大神の香りが強く香って、膝を擦り合わせなくてはいけないような落ち着かない気分になった。
「俺と、風呂にはい……はいる?はいるませんか?」
ちゅうっと首筋に吸いつき、精一杯の手練手管のつもりで体を摺り寄せる。
「そ、それに話の続きもっ」
そう言うと大神はまたも意外そうな顔をして溜息を一つ吐く。
「服を脱げ」
諦めような口調で告げると、大神はあかをそっと床に下ろした。
部屋から出て、ふむと声を上げた瀬能に大神は険しい顔を向けて咲良の具合は?と問いかける。
「他に言うことはないのかい?朝っぱらから呼び出して」
そう返すも大神は返事をしない。
咲良の様子を聞くまでそれ以外のことには一切答えないつもりなのを見て取り、瀬能は皮肉を込めて片眉を上げて睨みつけた。
「結婚おめでとう」
「そんな話はしていない」
「ああ、うん。まぁ、疲労だよね」
白衣のポケットに手を突っ込んで肩をすくめる。
「あんな華奢な体で君を受け入れたんだから負担だってあるさ」
「いい加減にしろよ」
低い声で言われて、瀬能はさすがにへらへらとした表情を引き締めた。
「怪我は足の裏と首だけだ、それ以外にはなかったよ。着物の血はすべて首からの出血によるものだね」
そう言って窺うように大神を見る。
「首は俺が噛んだ」
「そう。ちゃんと手当しないと駄目だよ」
「何も言わないのか」
「僕が!?どうして?」
大袈裟なほど驚いてみせる瀬能の真意を測りかねて大神は顔をしかめた。
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