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運命じゃない貴方と 18
「どこもかしこもふにゃふにゃや、そっと抱いたってよ?」
そう言って咲良は大神に赤ん坊を抱かせようとするけれど、大神は眉間の皺を更に深くして身を引いた。
「……」
「何しとん?」
「もう少し丈夫になってからにする」
真剣な顔でそう言うと、咲良はけらけらと大きな声で笑ってから無理矢理に大神の腕に赤ん坊を抱かせる。
大きなごつごつとした手は小さな赤ん坊に対しては不器用にしか動かず、手渡されたままの状態で固まる姿に咲良は微笑みを深くした。
元々、あまり体の強くない咲良が出産を経て体調を崩しやすくなり、寝込む日も少なくはなかった。
けれど調子のいい日は子供と出かけることもあり、そう言った日は咲良も子供も幸せな笑顔で満ちていた。
「おかさんに、おはなさん」
駆け寄ってくる小さな子供はくりくりとした目の可愛らしい少年で、咲良はその子が花を持ってくると嬉しそうに抱き上げて花を受け取る。
手の中で、子供が大切に摘んできたであろう黄色い花が咲く姿に咲良はにニコニコと笑った。
それに応じるように、子供も満面の笑みを浮かべる。
「ええ子やね。お花くれる優しい子やし、さとくんそっくりのイケメンさんやし、ホンマええ子や」
「さとくん?」
「あ、お父さんな?お父さんそっくりのええ男やで」
「おとさん、そっくり、ね」
「そうやで」
土汚れのついている鼻をちょいちょいとつついてやると、大袈裟なほどの笑い声を上げて身を捩るから、咲良は抱き上げていられずに下へと降ろした。
降ろすやいなや駆け出す子供を眺めた咲良は、ふと寂しそうな顔に戻る。
「もう、ホンマ……かわいい盛りにどこに行っとんのや」
ぽつんと零した言葉は、少し遠くに用事があると言って帰ってこない大神に向けたものだ。
まさか何かやらかして無理くりな長期旅行に行かざるを得なかったりするのでは……と訝しんでみたものの、時折戻ってきては土産だと菓子を置いて行くのでその心配はなさそうだった。
けれど、前に大神が起きている子供と触れ合ったのはいつだったかと思い出そうとして、咲良は思いだせないことに気づく。
これから組を引っ張っていこうと言う人間が暇ではないと思っていたけれど……と、浮かない顔で砂場に飛び込む姿を眺める。
「姐さん、そろそろ帰りましょうか」
「あ……うん、でも、もう少しええやろか?」
季候のいい時期だったけれど、外の空気に触れ続けるのは咲良には負担だ。
子供を産んで以来がくんと落ちた体力を取り戻そうとするもなかなかで、周りに心配をかけ通しな自分に項垂れる日もあった。
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