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運命じゃない貴方と 19

 それでも、子供に対してはできる限りのことをしてやりたいと思うのが母心だ。  一人産んでこの体たらくでは、二人目を望むのは難しいだろうと言う思いもあった。  咲良の母親も二人目を産むことが叶わないまま亡くなっていたため、そのことに関しては諦めもつく。  けれど、母親として満足に子供に接することができないと言う部分で感じる物悲しさはぬぐい切れず、咲良はこんな時に大神が傍に居てくれたら……と、もう一度寂しげに遠くを見る。 「なぁ、ササキ。さとくんはいったい何してんの?」 「申し訳ありません、何も聞かされていないので……」 「……別宅とか言わんよな?」  冗談を含ませた言葉だったのに、咲良の態度が寂しさを滲ませているせいか冗談と取るには難しい口調だった。 「お父さんにもおったし、甲斐性言われたらそれ    っ」  ぴりっとした空気を感じて咲良ははっと背後のササキを振り返る。  二人の婚礼の日の失態と指を無くしたことを受けて補佐を外されたササキは、今は咲良の護衛として傍らについていて、生真面目な性格のためかいつも淡々とした雰囲気があった。  なのに振り返った先にいた男は、表情こそ変わりなかったけれど纏う気配に刺々を含ませている。 「っ……ぁ」 「大事なご用事を片付けていらっしゃるそうです」 「あ、ああ、そうなん」 「国内にとどまりませんので、時間もかかっておりますし、ご連絡もなかなか難しいのだと思います」   海外……と呟いて、土産だと渡されたものの中にあったカラフルな菓子を思い浮かべ、咲良は納得して頷く。  けれど、何も聞かされていないのだと言っていた口で、よく情報が出るものだと軽く睨みつけた。   「ですので、浮気を疑うのは良いことではありません」 「そ、そうやな。それに、さとくんやったらもっと上手にするやろし」  口内が干上がるのを感じながらそう言うと、ササキが珍しく口の端を上げる。 「────女性ほどではありませんが、ね」  苦そうな笑みに、咲良は返事をすることができないまま曖昧に返事をして俯いた。   「学校の宿題なんです」  そう言って子供がノートを持ってベッドに横になる咲良の傍に来た。  父親の血を継いでなのか同じ年ごろの子供よりも頭一つ大きな子は、畏まると年相応には見えない。  組長の息子と言う立場柄、周りにちやほやされて我儘であってもおかしくないのに、利発そうな顔立ちそのままの利口な子だった。 「今、授業で家族のことについて習ってます。今日の宿題は名前の由来を聞いて来ることです」  きちんと言えたことが嬉しかったのか、得意げな顔をする子供の頭を咲良が撫でる。  そうすると、ちょっと大人びた顔が年相応になって、嬉しそうに笑顔を作った。  

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