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落ち穂拾い的な 着替え
「おい、氷嚢を用意しろ」
風呂場からそう声が聞こえて、直江が慌ててそちらに向かうと明らかに茹だったのだと分かる肌色であかが抱きかかえられている。
「のぼせたんですか?」
「ああ、水もだ」
大神があかをバスタオルで包んで寝室の方へと連れて行き、直江はキッチンへと氷を取りに向かった。
「きもち わるぅ」
「ならさっさと上がればいいだろう」
ベッドに放り出してから、エアコンを操作する大神を見上げてあかは「でも 」ともごもごと口の中で反論する。
服を着る間もなかったせいで、あかに向けられた背中には思わずびくりとするような刺青が見えた。
「俺は、あん……大神さんといたいんだ」
「……」
さっと吹きつけてきた冷たい風にぎゅっと目を閉じる。
「傍に居たいって思うんだ」
「だったら手間をかけさせるな」
つっけんどんにそう言うも、碌に体も拭かないまま大慌てでベッドまで運んでくれたことは事実で……
あかはぽたぽたと雫を垂らす大神の前髪を見ながら小さく笑った。
「大神さん、これを」
直江が持ってきたのは氷嚢と水のペットボトル、それから着替えが入っていると言っていた紙袋だ。
「ああ、あとはこっちでする、休んでろ」
「はい」
直江がにまりと笑うのを睨みつけ、大神は受け取ったものを持ってベッドに腰を下ろす。
甲斐甲斐しく氷嚢を首元に当て、水を飲めるかと尋ねてくる。
「あーん!あーんして欲しい!ちゅうでくれてもいいし」
「寝ながら飲むな」
にべもなくそう言うと、大神はあかの髪を拭き始めた。
大きな手が、その無骨さからは想像もできないほど優しく水気を拭って行く。
「大神さん」
「なんだ?」
「俺はー……正直、親を大切にする気持ちはわかんなくて。どうしてそんなことしたのかってことより、大神さんが傷つけられたことの方がおおごとだし、そのことがすごくいやなんだけど、それでも……んー……お母さんを大事にしてるんだなって」
あかの手はぱたぱたと空中に何かを描こうとしているけれど、自分自身でも何をしたいのか、何を言いたいのかわかっていないようにしどろもどろだ。
「大事にされて、大神さんのことわかってないかもだけど、それでもお母さんは嬉しそうだったなって」
「…………」
「病気?で、しんどいんだろうけど、幸せそうだったよ、だからー……」
そう言葉を重ねるも、あかはやっぱり言いたいこともそれを伝えるうまい言葉も見つからないようで、手だけがばたばたと暴れている。
「……そうか」
小さく口の端を歪ませた大神の顔が近づき、そっとあかの唇に触れて水を注ぎ込む。
ひやりとした水にはっとなると、あかはぎゅうっと大神にしがみついて頬を寄せた。
「俺はっ大神さんが大好き!ですっ大きいし、怖いし、いきなり人を襲うような人だけどっ!あんたの傍にいると、……」
すり……と頬を擦りつけると、大神らしい男っぽい匂いが鼻腔をくすぐる。
「傍に居られるだけで、俺は幸せだから」
「……そうか」
逞しい腕に抱き締められてぎゅっと体が撓る。
苦しいはずなのにあかは幸せそうに微笑んで……
大神は大きな溜息を吐いて体を起こすと、「服を着ろ」と短く言って紙袋を投げて寄越した。
「え……」
「なんだ」
「ええっと、このままじゃないの?」
「何を言っている」
まだ赤い顔のあかはよたよたと体を起こすと、ちょっと考えた素振りをしてから大きく手を広げる。
そうしてしまうと一糸まとわぬ体はすべてが晒されて……
痛々しいほどに細い体に、大神はぐっと唇を引き結ぶ。
「ああ言うことしないの?」
「……さっさと着替えろ」
紙袋をぐいと押し付け、大神はイライラしたように頭をかいてそっぽを向く。
その姿はどこか拗ねているようでもあり、いじけているようでもあり……
「あ、えっと、……あー……こ……こ、これでいいのかな?腕はここでいいのかな?よくわかんない……」
「なにがだ」
小さな子供でもないのだからと振り返った大神の表情が固まる。
「こう言うの が、いいんだ……お、覚えるね」
透けるほど薄い生地とレースで出来た細いパンツと、同じ布で作られたらしいベビードールの裾を掴んでもじもじとあかは言う。
「あっ靴下っ……くつした?」
拡げられた網タイツを見て大神は眉間にぎゅっと皺を寄せた。
「直江っ!」
怒鳴り声と共に勢いよく開け放った扉の向こうで、ローション徳用ボトルを持った直江がきょとんと首を傾げる。
「今持って行くところでした。用意が遅れてすみません、どうぞ」
差し出されたボトルの中で、ローションがたぷんと小さく音を立てた。
END.
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