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落ち穂拾い的な なんだかんだ甘い

 研究所の応接室で険しい表情をしながら報告書類に目を通していた大神は、扉の方に目を遣って顔をしかめた。  傍らに立つ直江に視線を向けると、それだけで理解したのか直江はさっと扉に向かうと一気にそれを開く。 「わわわっ!」 「うわっ」  どさっと部屋に倒れ込んだのはエプロン姿のセキとしずるだ。 「どうしたの?」 「あの……しずるとプリンを作ったから……」  「大神さんは仕事中だ」  短い直江の言葉と、自分ではなく直江に対応させたことを思うと煩わしい案件に対応しているのかもしれない……と、セキはしょんぼりと肩を落とす。 「はじ……初めて作ったからって……。……えと、ごめんなさい」  壁の如く立ち塞がれてはどうにもできず、また仕事中なんだと理解して二人して肩を落とした。 「まぁしょうがねぇな」 「プリンどうしようか……」 「ちょうどおやつの時間だし、食っちまうか」 「チョコとプレーンどっちにしようかな」  「じゃあ、俺と半分こするか?」  しょんぼりとした姿は一瞬で、二人はさっさと気を取り直したのかプリンの話をしながら踵を返す。 「待て。セキは残れ」 「ふぇ?」    呼び止められてセキはきょとんと振り返る。 「え、あ、じゃあしずるは先に行ってて」 「おう、プリン用意しておくからな」 「必要ない」  大神の冷たい言葉にしずるはぐっと言葉を飲んだ。  そろりと直江を窺うも、肩をすくめられて首を振られるだけだった。 「オレ、出来立ての熱々プリン楽しみにしてたんですけど。作るの初めてだったし」  そうふくれっ面で言うも、セキは大神の横に座って嬉しそうだ。   「そこで大人しくしてろ」  そう言うと一瞥もせずに視線は次々と書類に注がれていく。  仕事をしている最中の真剣な横顔を見るのも好きだったけれど、無理矢理自分を呼び止めたのだからもう少し構ってくれてもいいんじゃなかろうかと、セキはこてんと大神に寄り掛かる。  仕事の邪魔だと言われるかとも思ったが、がっしりとした大神はそれくらいではなんとも思わないのか書類を捲る手に淀みはない。  呼び止められたからと特に何もすることがないと言うのが退屈で……  セキはぐりぐりと頭を擦りつける。 「大神さんに食べてもらうの楽しみだったんだけどなー?」 「……直江、プリンを受け取ってこい」 「はい、わかりました」  返事以外は何も言わずに出て行く直江を見送って大神は片眉をあげた。 「満足か?」 「お仕事はいいんですか?」 「休憩だ」  それを聞いて、セキは嬉しそうに大神の膝の上によじ登る。  体面の形に座ってにこにこと険しい顔を見詰めた。 「……」  にこにことした表情に嫌な予感を覚えて、大神はセキを下ろそうと腰に手を遣った。  ちら っと上目遣いに見上げられて、大神の手がぴたりと止まる。  すっかり、自分の使い方を覚えたセキを睨みつけながら低く唸るように「なんだ」と返す。 「なんだかんだ我儘を聞いてくれる大神さんが大好きです」  そう言ってぴったりと大神の胸に体をつける。  ふふふ と笑う自分自身の声に混じって聞こえる大神の鼓動にセキは幸せそうに目を閉じた。   END.

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