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落ち穂拾い的な Ωの願い

「ほんっっっっっと、大神さんはセキに甘いよな」  そう言ってしずるは直江にプリンの乗ったお盆を手渡す。 「まだ熱いから気をつけて」 「ああ、ありがとう」  そう言うも直江は動き出そうとはしない。  しずるはきょとんと首を傾げてみせるもやっぱり直江は動きそうになく、逆にテーブルに着いてしまう。   「んと?お代わりも持ってく?」  雪虫仕様で全体的にちょっと小さな容器で作ったために、大神や直江にはちょっと物足りないのかもしれないと、しずるは粗熱を取るために置いていたプリンに手を伸ばした。  余分に作ってはおいたから、二人のお代わり分くらいなら大丈夫だ。 「いや、いいよ。ちょっとゆっくりしてから戻るから」 「ん? ────あ」  思い当たって素直に直江の向かいに腰を下ろす。  直江が戻るとまずいようなことをしているのかと思うと、どうにも落ち着かずにそわそわと視線が動く。 「まぁ昼間だし、そこまで長くじゃないよ」 「あ、う。仕事中って言ってなかったっけ?」  「まぁそうだけど」と言い返しながら、直江は呑気に頬杖をついた。 「大神さんは働きすぎだから少しぐらいならいいんじゃない?」 「ああ、そう……」  ホント、セキに甘いなぁとぼやいてまだ温かいプリンを掬って口に入れる。 「セキに甘いって思ってる?」 「ん、まぁ」    すも入らずに滑らかにできているのを確認して、今回の出来に満足しているしずるは曖昧に頷く。 「君が雪虫に甘いのと同じ理由らしいよ」  同じ理由らしい……って言うことは、瀬能が言っていたんだろうと当たりをつける。  自分が雪虫に甘いのは運命の相手だからで、一緒にしないで欲しいとしずるはむっと口を突き出した。 「アルファ因子持ちには、オメガの『お願い』をどうしても聞きたくなる傾向があるんだって。前に瀬能先生が言っていたアルファのなんとなく行動の一つらしいね」 「……」  雪虫を大切にして、望むすべてを叶えてやりたいと思うのが遺伝子によるものだと言われたような気がして、面白くなさそうな顔が更に険しくなって行く。  そんな訳のわからないものに突き動かされた感情ではなく、雪虫が愛おしくて堪らないからなんだとじっと直江を睨み返した。 「俺は、雪虫以外のオメガのお願いを聞きたいとは思わないけど」 「そう言うはっきりしたものじゃないと思うよ。無意識に近いものだと言っていたから」 「無意識に近いのにあれだけセキに甘いってことは、大神さんはセキのこと大好きなんだな」  厭味ったらしく言ってやるけれど、直江はそれを華麗にスルーする。   「そうなんだろうね」  その言葉に引っ掛かりを覚えて、睨むのをやめて手元のプリンに視線を移す。   「これが、アルファの本能だとかどうだとかは知らないけど、オメガの望みを無意識にでも叶えちゃうのはいいことなんじゃないの?願い事を叶えられて悪い気はしないだろ?」  自分自身が行動することによって、自分のΩが幸せそうに笑ってくれるなら十分だと、そう考えるしずるは直江の態度がわからないようにむっと唇と尖らせる。 「  それが自分の首を絞めなければの話だよ」    小さく潜められた声は早口だったせいで、ほぼ同時にキッチンに飛び込んできたセキの声にかき消されてしまった。 「しずる!プリンは?」  はっと視線をそちらに遣ると、直江はいつも通りの表情でお盆を持って立ち上がるところだ。 「俺が持って行くよ」 「あ  」    そう言う直江にセキは自分が!と言いたそうにしていたけれど、真っ赤な頬に手を当てたセキはぷるぷると首を振って思い直したようだった。  誰が見ても明らかに赤い顔に少し腫れぼったい唇を見れば、さすがにしずるも何があったかは理解できて…… 「……ホント、大神さんは」  続く言葉を口の中で呻くように呟いた。  END.

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