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乞い願い慕い犯す 11

「こ、れで……終わりじゃ……」  子供らしい考えと窘めてやればいいのか、それとも浅慮と嘲笑ってやればいいのか。 「そう思うなら呼び出しに応えなければいいだけの話だ」  私はそれ以上は何も言わない。  それで杠葉がどうなろうと私は痛くもかゆくもないのだから。 「…… くたばれ」  呻くように言った言葉を聞こえなかったふりをして問い返したが、彼はぐっと唇を引き結んで何も言わなかった。  屋上に出られるのは教師の特権だ。  テレビや小説の中で屋上でたむろっているシーンがあったりもするが、安全等を考慮して生徒が立ち入ることができる場所ではない。  普段人の来ないそこは必要以上の手入れがされず、吹き溜まった砂に根を下ろした雑草が端の方でのびのびとしている。  もちろん、他には誰もいない。  昨今の傾向で喫煙家は肩身が狭くなった。  電子煙草ならばまだ違ったかもしれないが、生憎と私は昔ながらの方がいい。  ふぅー……と細く長く吐いてやるが、屋上と言う場所柄あっと言う間に風に吹き飛ばされてわずかな香りだけが残る。  ぼんやり空を見上げているのも良かったが、手持無沙汰を感じて携帯電話を取り出す。  生徒達には携帯電話に依存するなと散々注意をしている立場で、間が開けば覗いてしまうのはどうにかできないものだろうか……  幾度も見た杠葉がホテルの前で中年男性に腰を抱かれている写真だ。  杠葉の顔ははっきりと映っているし、ホテルの看板も映っている。  中年男性のもう片方の手がラブホの入り口に入りかけていることから、たまたま前を通った……なんて言い訳が言えない写真だった。  端的に言えば、これは未遂だ。  杠葉が入り口を潜る前に私が二人を止めたのだから。 「……ふふ」  身分を告げた際の中年男性の真っ青な顔を思い出すと笑ってしまうが、その隣で顔色を無くすと言う言葉通りに蒼白な顔をしていた杠葉は格別だった。  教師に見られたこと、現場を押さえられたことによる恐怖で……  杠葉の家庭の事情は聞き及んでいた。  αから番契約を破棄された男Ωの父との二人暮らし。  そして杠葉自身もΩで……  幾らこの『つかたる市』がバース特区で、Ωでも暮らしやすいとは言え生活は楽ではないらしい。  様々な補助が出る場合もあったが、現状、番がいるΩは番のいないΩと同等の優遇は受けることができない。  例え番が破棄されていても だ。  ゆえに番解消をされて病んだ父親と二人、生活は楽ではないと聞いた。 「パパ活……ねぇ」  暗くなってしまった携帯電話の画面をカツリと叩いてやると、また杠葉の写真が現れる。 

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