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乞い願い慕い犯す 13
怪我を……それも、転んだなどではない派手な怪我をしていたと言う話を聞いて血の気が下がった。
担任からの話によると、絡まれていた杠葉を助けたために怪我を負い、学校に遅れたのだと……
ただ、そんなことのために?
一部では人助けをしたと言う見方をする人々もいたが、大半は無謀な行動と暴力行為、そして遅刻に目が集まった。
どうして自ら助けたのか。
なぜ警察を呼ばなかったのか。
問いたいことは幾らでもあったが、担任でも学年主任でもない私が口を挟むことはできなかった。
それが彼らの馴れ初めらしい。
なんて馬鹿なことをしたのか……颯はこの事件で生徒会役員にはふさわしくないと、任期途中で役を降りることとなり、サッカーの試合にも当分出場させてもらえなくなったのだ。
しなやかに、四足で駆けるしなやかな獣のようにボールを追う彼が……
楽しそうに学友と汗を流していた彼が……
Ωなんかのためにそれらを失ったと言うのは、どうしようもないほどの怒りを私に抱かせるには十分だった。
……もっとも、やはり私には、何もすることはできなかったのだけれど。
杠葉のために彼が払った犠牲に悔しい思いをするも、だからと言って口を挟めることではない。
だから、杠葉を苦々しく思いながらも、私は眺め続けるだけのはずだったのだ。
「…………」
携帯電話の中の写真にもう一度視線を落とす。
杠葉の行ったこのことは、私にとって転機だった。
Ωがどれほど卑しいか、どれほど彼の信頼を裏切ったのか、それらを見せつけ良くわからせることができる絶好の機会だったのだ。
彼は目を覚まし、杠葉からは距離を取ってまた輝かしい道を歩んでいける、チャンスだった。
なのに彼は……
「…… 」
ふぅっと吐き切り、颯へと電話を掛けた。
スラックスを床に落としてしまうと、彼は心細そうに足を擦り合わせる。
「きちんと渡した浣腸は使ったかい」
「…………あぁ」
「では上も脱いで」
そう促すと彼は渋々と言う感情を隠しもしないでボタンに手をかけた。
杠葉の問題行動を告げた私に、黙ってていてくれるように頼んできたのは彼自身だった。
私の差し出した写真を黙って見たあと、よりにもよって私なんかに頭を下げて願い出たのだ。
黙っていてくれるなら何でもやります と。
これは杠葉の問題だからと諭す私にそれでも食い下がり、あの堂々とした姿を微塵も感じさせないほどの態度で、床に頭を擦りつけて懇願する姿は……
私の眺め続けた彼ではなかった。
杠葉にはお願いをしたら聞いて貰えたと伝えたそうだ。
そんな嘘を言う方もだが、そんなことで援助交際がなかったことになると思っている杠葉も杠葉だった。
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