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乞い願い慕い犯す 23

 首を異様に伸ばして糞尿を垂れ流した母を抱き締める二人の姿は、さながらピエタ像のような神聖ささえ感じたけれど……  彼らは自分達で母を死に追いやったにもかかわらず、母の無実が証明された途端私が犯人だと騒ぎ出した。  自分達の身の潔白を証明するために、私の存在が母を苦しめ、その為に母が自死に追い込まれたのだと唾を飛ばしながら毎日毎日訴え続けた。  その姿は、気高くあれと自信満々に言っていた言葉からは程遠い、低俗で卑猥なものだった。  αとはかく在れ。  そう言っていた言葉は消え去り、私の中にαですらβの自分と何ら変わらないのだと知らしめた。  いや、あっさりと愛していると言っていた妻を貶し、大好きだと言っていた母を汚物呼ばわりするそれは、ころころと手の平を返し、舌の根も乾かない内に責任転嫁して自分の非を認めない醜悪な生き物だと私に教えた。  なんて下らないのだろう。  今まで盲目的に信じていた人の手本となり、人を導き、その智を持って治めよと言っていた言葉が見事に泥の中に堕ちた。 「   っ、と」  立て続けに二本三本と吸っていたせいか、もう一本……と箱を探るが何も指に触れない。  予備は車のダッシュボードの中だ。  イライラするとどうしても吸い過ぎてしまうのは悪癖だ。  いつか治そうと思いつつ、一生付き合っていくのではないかと思っていたりもする。 「さぁて、どうしたものか」  この後の予定を考えるために腕時計に目を遣った時、ガシャン と重い屋上の扉が開く音がした。 「ああ、いいタイミングで来ましたね」  普段閉まっているのだから、ここにくる生徒はここが開いていると知っている人物のみだ。  思いの外屋上の風が強かったせいか、堂本はこちらに一歩踏み出すのに戸惑うような雰囲気を滲ませる。 「…………受け取りに来た」  ぽつりと言葉を漏らすが、その声は昨日の痴態のためにか掠れているようだった。  声変わりの彼はこんな感じの声だったのかもしれないと、ぼんやりと思いながら足元に置いた小さな紙袋を指で吊るす。 「どうぞ」 「…………」  彼は、警戒しているようだった。  昨日散々、奥の奥まで暴かれて、従順に言葉を紡いでいたのに、こちらを見つめる目は不服従を示している。  風に揺らぐことなく、凛とした風情でこちらへそろりと歩き出す。 「できる限りの気を遣ったつもりだけれど、体に辛いところはないかな?」 「……」 「見ていたけれど、普通に体育もできていたようだけれど」 「っ!?」  私に見られていたと知ったからか、彼の目にはさっと侮蔑の色が浮かんだ。  

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