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乞い願い慕い犯す 31
尊厳を奪われ、Ωのように扱われ、人の目に触れるかもしれないようなこんな場所で犯され、辱められ、弄り倒されて。それでも尚、彼はΩを庇ったのだ。
「 これは、俺の 選択だから、杠葉の……せい なんか じゃない」
けれど、噛み締められた唇がわなわなと震えているのが見て取れた。
端整な顔の輪郭に沿って伝い落ちるのが精液なのか彼の涙なのかは判然としない。
彼の姿は、汚されていると言うのにそれでも気高く見えた。
「アルファは人々のトップに立つ性なのだから、それをきちんと理解して驕ったりせずに弱者を助け導きなさい」
「貴男は大切な息子なのよ、お母さんはいつでも味方だからね」
「私はお姉ちゃんだからお手本なのよ?いろんなこといっぱい教えてあげるからね」
「お母さんを守ってあげるんだ」
「貴男のことが皆、大好きよ」
「手を繋いでてあげる!」
「品行方正に、嘘や詭弁は以ての外だ」
────αらしく、あれ。
はっと目を開けるとまだ世界は薄暗い。
すべてが曖昧な灰色に落とし込まれるようで、現実よりもむしろ夢の方が鮮明で美しかった。
とは言え、出て来たのがあの面々だと言うのが、なんともじっとりと湿った髪に絡め取られてしまったかのような嫌な気分にさせる。
αとは、素晴らしい性別なのだと思っていた日々の言葉は、今思えばなんと寒々しいことなのだろうか?
大好きと言いつつすべての罪科を私に残して逝ったΩの小狡さに愛情はあったのだろうか?
あっさりと手を振り払って踏みつけるようなことをして、手本などと言えるのだろうか?
すべて口先だけの言葉だったのだ。
「…………」
寝直す気力も湧かず、睡眠が足りていないのを承知で立ち上がった。
キッチンの換気扇の下に置いてある椅子に腰を下ろし、煙草を咥えながら表面が蜘蛛の巣のようにひび割れた携帯電話を指先で弄る。
画面の傷は昨日ついたものだった。
それが邪魔するのを残念に思いながら画面に映し出された彼の姿に視線を落とす。
全身を朱に染めて横たわる彼の艶姿は、記憶の中の物よりも幾分くすんで見える。
それが画面が割れたことによるものなのか、それとも写真と言う肉眼から離れてしまったために起こったことなのかは判断がつかなかった。
────パシャ
小さな音を、今の状態の彼が拾うとは思ってもいなかった。
けれどはっと正気を取り戻した彼は私と、そして右手に持ったままの携帯電話を交互に見て真っ青になる。
「なに なに、を 」
「記念写真だよ。潮を吹いたのなんて初めてだろう?君の初めて記念日なのだから、こうして記念写真を撮ったんだ」
「な、 な……んで、そ 、ま、ぃ、……まさ、か 」
彼が急に青くなったのはいただけなかった。
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