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乞い願い慕い犯す 42
むしろはっきりとわかってほっとした心境だ。
「…………これは、酷いな」
穴の開いた携帯電話を眺め、細かい破片をスリッパの先端で搔き集めるようにつつく。
「初めて記念を撮った後、片付ける先を見ていたのか」
あれだけ凌辱されてなおその余裕があったことに驚きだった。
彼との記録を収めた残骸を眺めながら、「で?」と彼に問いかける。
「これで、俺があんたの言うことを聞かなきゃならない理由は無くなった」
「杠葉の件はどうするんだい?」
奥歯を噛み締めているのか、彼の頬がわずかに動く。
真っ直ぐこちらを見る目には、まんまと携帯電話を盗まれた私に対する嘲りはなかったけれど、優位に立つ人間の余裕が見て取れた。
「これを 」
彼が上着から取り出した携帯電話を操作すると、
『先生、のお、おち〇ぽ様が、出したものを』
『出したもの?』
『っ……おち〇ぽみるくを……、 』
『どこに出した?』
『お、おれ……どうもと……はやて、の顔に、先生のおち〇ぽ様が出したみるく、が、すりつけ、られて……』
昨日の会話が流れ出す。
「ああ、それで、やけに『先生』『先生』と繰り返したのか」
「これを公開されたら?」
彼の物言いに「はは」と短く笑いが零れた。
「君の名前も出ているけれど?」
「……杠葉を守るためなら刺し違えてやる」
低く呻くような声はその覚悟の程だろう。
「そうか」
「…………」
ガシャン と音を立てて器具の入った箱が置かれて、彼が踵を返そうとする。
「君が従順に従っていたのはこのためだったのか」
「……」
「そうか」
床に転がされた携帯電話を拾い上げると、小さな欠片がぽとぽとと転がり落ちて音を立てた。
「 これは、契約の破棄と見て構わないかな?」
「……破棄も何も あんたの優位は崩れたんだ」
そう言うくせに、彼の足は動かない。
「そうか、残念だ。杠葉の身代わりが約束だったのに、それ以外のことをするなんて……」
「なん……」
「電源が入らないね、非常に残念だ」
「なに 」
「君は杠葉を守ろうとしただけなんだ、深く思い悩むことはない。それだけはよく覚えておくんだ」
「なに、言って」
ぷつ ぷつ と昼休みを告げる放送が始まる。
いつもなら音楽が流れ出すはずのそれが、ざーざーと砂嵐のような雑音を響かせて……
「この携帯電話が動けば、止めることもできたのだけれど」
『 あ゛っ、お、ぉ゛ち〇ぽ、が、 』
流れてきた声に、颯の肩が跳ね上がる。
「────」
「この携帯に何かあったら、流れるようにしておいたんだ」
『あ゛ぁ゛……おま、おま〇こっ、あちゅ、熱い、っぁんっ』
「止められるのはこの携帯からだけだったんだけど……これじゃあ無理だね」
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