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晴と雨の××× 4
一枚の紙を渡されたけれど、そこに書かれている言葉の意味は俺にはさっぱりだ。
医者だとか、科学者とか、そんな職業の人間達ならわかったのかもしれなかったけれど、一介の高校生には何が何だか……
「これは君のバース性検査の結果を示したものなのだけれど、ここを見てもらえるかな?」
清潔そうな指先が紙の一部を指すけれど、文字としては読めても意味は分からない。
「俺の……バース性がおかしいってことは聞いています」
「うん、バース性については?」
「学校で習いました」
そう答えたのに、瀬能は使い込まれたのがわかる小冊子を取り出してよく見えるように目の前に広げてみせた。
「では男女性の他にバース性と呼ばれるものがアルファ、ベータ、オメガ、そして無性の四種類があるのは理解できているね」
「はい」
そこでもう一度先程の紙の登場だ。
「検査の結果、君のバース性はどれにも当てはまらないことが確認されたんだよ」
「…………」
改めてはっきりと言われてしまうと気持ちは複雑だった。
なんだかはみ出し者と言われてしまったかのような居心地の悪さがして、もぞもぞと椅子に座り直す。
「暫定的に『χ』と呼ばせてもらっているけれど、今回君に来て貰ったはそのことを詳しく調べたいからなんだ」
「調べたい……」
と、言っても、要はモルモットだろうと思うと、目の前の瀬能が悪の科学者か何かに見えてくる。
「もちろん危険なことはしないよ?血液検査はさせてもらうけれどね」
「…………まぁ、それくらいなら……」
幸い、俺は注射が嫌いで逃げ回ると言うほどではないから、苦と言うほどではない。
「そう、ありがとう!」
ぱぁっと瀬能が笑うと……ますます胡散臭い。
「こちらに越してきてもらえるなんて思ってもみなかったから嬉しいよ」
「や、まぁ、その方が都合が良かったんで」
思わずぽそりと声が漏れた。
都合がいい……それが一番の理由だ。
生活場所も生活費用もすべて出してもらえる上に、研究の為にプライバシーは確保される……
人から逃げるには、一番都合が良かった。
初登校の日は朝からやっぱり雨だった。
じめっとして肌寒く感じる校舎を案内されて、初めて見るクラスメイト達の前に立った時には緊張したけれど、心配していたような陰湿な雰囲気はなくてちょっとほっとした。
以前通っていた学校での人間関係に未練がないわけじゃないけれど……
それでも、ここに来ることができてほっとしている。
ちらりと視線を遣った先には昨日よりは淡い色をしてはいるけれど、雨雲だと主張している雲が一面広がっていて今日一日の天気を知らしめているようだった。
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