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晴と雨の××× 5

 事前に教えられていたために、この学校の授業の進み具合に困ることもなく、場所が変わった居心地の悪さを感じはしたが不便はなかった。  なんの問題もなく初日の授業をスタートして、もうすぐ昼休みだし……と途切れそうになった集中力に活を入れるためにぐっと背筋を伸ばして視線を外へと向ける。  チカリと、光が目を射った。  眩しさに咄嗟に顔をしかめるようにした俺に、雨雲が薄れて光が差し込む様子が見えて……  雨が止んだんだな なんて言葉が普通は出るのだろうけれど、俺にはそうは思えなかった。 「  ────っ」  思わず力が入ったせいでシャープペンシルの芯がぺきって小さな音を立てたのと、授業中なのに担任が教室のドアから顔を覗かせたのは同時だった。  教室中がざわ と騒ぎ出す。 「えー……授業の邪魔をしてもうしわけない。本来なら今朝ご紹介するべきだったのですが、事情で遅れていらっしゃいました新しい副担任の紹介をします   」 「水谷虎徹でっす!」  耳が痛くなるほどの大きな声が原因ではない。  教卓の上から見えるちょこんとした上半身はどこからどう見ても中学生で…… 「副担任と生物を担当しまっす!よろしくねー!」  語尾にきらきらとした何かが見えそうな声音で言うと、ぺこりと丁寧に頭を下げる。  背が小さいせいかそうしてしまうと教卓に隠れてしまい……教室中が更にざわりと騒めく。  ふわふわとした柔らかそうな癖毛を二匹のトラのキャラクターもので止めた水谷は、にっこりと笑うとこちらが恥ずかしくなるほどの美少女だ。  まぁ、ただし、こいつ男なんだけど。  伏せた頭の先にはノートの白いページが広がっていて……  俺はとにかく、どうすればこの状況から逃げ出せるか必死になって頭を働かせる。 「じゃあ、顔とお名前を覚えるために呼んで行くので元気なお返事をくださいねぇ!」  元気よくそう言い、よく通る声が名前を呼んで行く。  拳にした両手に汗が滲んで……ああ、もう駄目だってわかった。  今はナ行の名前を呼んでいる、俺の名前まではすぐそこだ。  気分が良くないと保健室に立ったとしても目立つだろうし、だからと言ってこのままでは……   「  ────はやしばら こたろうくん!」  ひぃみたいな悲鳴のような声が漏れた。 「あれー?元気ない?」 「い、え、……」 「林原くんはー……トラって書くんだねぇ!僕といっしょだ」 「…………」 「  ────運命感じちゃうなぁ」  そろりと見上げた教卓の向こうの笑顔に……俺は震えそうになって曖昧な声を漏らすしかできなかった。

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